自社ビル売却と事業承継を同時に進めた事例

  • 事業承継

相談者プロフィール

中村昭夫さん(仮)、66歳、愛知県名古屋市在住。印刷業を営む株式会社の代表取締役で、創業から38年。年商約1億5,000万円、従業員8名。25年前に本社兼賃貸用の商業ビル(地下1階・地上5階)を取得し、1~2階を自社工場、3~5階をテナントに賃貸。妻(63歳・経理担当)、長男・健一さん(38歳・現在取締役)、長女(35歳・主婦)の4人家族。

【事業・財産の状況】
印刷業の売上は安定しているが、商業ビルの管理業務(テナント対応、設備メンテナンス等)が負担となっている。ビルの評価額約2億円、印刷業の自社株評価額約3,000万円、その他個人資産約1,500万円。

ご相談内容

昭夫さんは印刷業一筋で会社を成長させてきましたが、25年前にビジネス拡大を見込んで商業ビルを購入しました。当初は「資産を持てば安心」と考えていましたが、年を重ねるにつれてテナント管理の煩雑さを感じるようになりました。夜間や休日のトラブル対応、設備の老朽化による修繕費の増加、テナントとの契約更新交渉など、本業以外の業務に多くの時間を割かれていました。

長男の健一さんは印刷業には熱心に取り組んでいますが、不動産管理には関心が薄く、「ビル管理まで引き継ぐのは負担が大きい」と話していました。昭夫さん自身も「息子には本業に集中してもらいたい」という思いがありました。

「ビルを売却して身軽になりたいが、会社の資産を売ったら税金が大変なことになるのでは」「売却のタイミングはいつが良いのか」「事業承継への影響はないのか」といった不安がありました。また、「ビルを手放したら会社の資産が減って、承継時に問題が生じるのでは」という心配もありました。

税理士に相談したところ、「法人での不動産売却は税負担が重い」と言われ、さらに悩みが深くなりました。それでも「息子の将来を考えれば、シンプルな事業形態で承継したい」という思いから、専門家に相談することにしました。

ご提案内容

ご相談を受けた際、まず昭夫さんの事業承継に対する想いと、ビル管理の負担について詳しく伺いました。不動産売却と事業承継を組み合わせた総合的なプランについて分かりやすくご説明し、「適切なタイミングと方法で進めれば、税負担を抑えながら理想的な承継が可能」であることをお伝えしました。

不動産鑑定士による詳細な査定を実施し、市場価格を把握した上で、税理士と連携して売却時の税務影響を試算しました。また、信頼できる不動産仲介業者と連携し、テナントへの配慮も含めた売却戦略を策定しました。

事業承継については、ビル売却による会社の財務体質改善を活かし、健一さんへの株式譲渡を段階的に進める計画を立てました。売却益の一部を設備投資や運転資金に充当することで、印刷業の競争力強化も図りました。

売却活動では、テナントの営業継続に配慮し、新オーナーとの円滑な引き継ぎを重視しました。約6ヶ月の売却活動を経て、希望価格に近い1億8,000万円での売却が成立しました。

相談者の声

ビルの管理業務から解放されて、本当に肩の荷が下りました。売却前は「資産を手放すのは不安」と思っていましたが、実際には会社の財務が改善され、息子への承継もスムーズに進められました。

健一も「印刷業に集中できるようになった」と喜んでおり、新しい設備投資も積極的に検討しています。ビル管理の煩わしさがなくなって、家族の時間も増えました。専門家の方が税務面も含めて総合的にサポートしてくれたおかげで、理想的な形で事業承継ができたと思います。

担当者のコメント

本ケースは、事業の本質を見極めた承継計画の好例です。不動産は確かに資産価値がありますが、管理負担や後継者の適性を考慮すると、必ずしも承継すべき資産とは限りません。

重要なのは、後継者が本業に集中できる環境を整えることです。不動産売却により得られた資金を事業強化に活用することで、より健全な経営基盤での承継が実現できます。また、売却タイミングと税務対策を適切に組み合わせることで、税負担を最小限に抑えながら理想的な事業承継が可能になります。

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