相談者プロフィール
相談者の情報
堀内修平さん(仮)、58歳、埼玉県熊谷市在住。
個人事業主(板金塗装業)として30年間営業を続けてきたが、近年の売上減少により事業所得は年間約180万円まで落ち込んでいる。
妻(55歳・食品工場のパート、月収約10万円)、母(82歳・要介護1、同居)の3人暮らし。
息子(30歳)は群馬県高崎市で独立して生活している。
物件・ローンの情報
父から相続した土地に2002年に注文住宅を新築(木造2階建て、5LDK+作業場)。
住宅ローン残債は約520万円(完済予定は2032年)。
月々の返済は約8万円。
固定資産税・国民健康保険税・住民税・個人事業税の滞納が合計約137万円あり、自宅の土地・建物に市による差押登記がなされている。
ご相談の内容
堀内さんは高校卒業後に板金塗装の道に入り、28歳で独立開業しました。父親から相続した土地の敷地内に作業場を構え、近隣の工務店やハウスメーカーの下請けとして住宅の外壁塗装・屋根塗装を請け負い、腕の良さと納期の正確さで信頼を築いてきました。2002年には同じ土地に自宅を新築し、住宅ローンは建物部分のみ2,000万円を借り入れました。最盛期には年間の事業所得が500万円を超え、返済に困ることはありませんでした。
しかし2019年頃から、主要な下請け先の工務店が代替わりして発注単価の引き下げを求められるようになり、さらにコロナ禍で新築着工件数が減少、2022年以降は塗料や足場材のコスト高騰が追い打ちをかけました。売上が減る一方で経費が膨らみ、2024年の事業所得は約180万円にまで落ち込みました。資金繰りが厳しくなる中で、堀内さんはまず税金の支払いを後回しにするようになりました。最初は「来月まとめて払えばいい」という程度でしたが、固定資産税、国民健康保険税、住民税、個人事業税と滞納が広がり、気づけば延滞金を含めた合計額は約137万円に達していました。
2025年春に熊谷市の納税課から差押予告通知が届き、同年8月には自宅の土地・建物に差押登記が実行されました。同じ時期に住宅ローンも2ヶ月分の滞納が生じ、銀行からの督促と市役所からの通知が同時に届くようになりました。堀内さんにとって最もつらかったのは、父親から受け継いだ土地を自分の代で失うかもしれないという事実でした。30年間この場所で仕事と生活を続けてきた自負があり、人に助けを求めること自体に強い抵抗がありました。
妻の洋子さんには2025年春にようやく滞納の全容を打ち明けました。洋子さんは当初声を荒らげましたが、「怒っても仕方ない、どうすればいいか考えよう」と切り替えてくれました。一方、同居する82歳の母・ハルさんには事情を話せないままでした。亡き夫から息子に受け継がれた土地に強い愛着を持つ母に、差し押さえや売却の話をすることは堀内さんにはできませんでした。夕食後、洋子さんと二人で今後のことを話す中で、何度も話題に上がったのは「おふくろをどうするか」ということでした。82歳で要介護1の母を連れて引っ越すとなれば、デイサービスやかかりつけ医の変更、環境の変化による心身への影響など、不安は尽きませんでした。
ネットで「税金 滞納 差し押さえ 家」「公売と競売の違い」などを検索しましたが、自分のように住宅ローンの残債と税金の差押えが同時にあるケースで任意売却が可能なのかどうか、判断がつきませんでした。2026年1月、取引先の工務店の社長が雑談の中で任意売却の専門家に相談して立て直した経験を話してくれたことをきっかけに、洋子さんの後押しもあり、翌週夫婦で相談窓口に電話をかけました。
相談所からのご提案・解決までの流れ
ご相談を受けた際、まず堀内さんご夫婦の状況を整理しました。このケースの特徴は、住宅ローンの残債(約520万円)だけでなく、税金の滞納(約137万円)があり、すでに市による差押登記がなされていた点です。差押登記がある不動産は通常の売却手続きでは買い手への引き渡しができないため、売却にあたっては住宅ローンの債権者である銀行と、滞納税の債権者である熊谷市の双方から了承を得て差押えを解除してもらう必要がありました。堀内さんはこの点について「差押えを解除するには滞納額を先に全額払わないといけないのでは」と心配されていましたが、売却代金の中から滞納税を配分する形で解除の交渉が可能であることをご説明しました。
物件の査定を行ったところ、建物は築24年の木造で残存価値はわずかでしたが、熊谷市石原地区の住宅地として土地の需要は一定程度あり、売却見込み価格は約1,200万円と判断しました。売却代金から住宅ローン残債約520万円と滞納税約137万円を清算し、仲介手数料等の諸費用を差し引いても、引っ越し費用に充てられる資金が残る見通しでした。
まず熊谷市の納税課との交渉を行い、任意売却による売却代金から滞納税を一括清算することを条件に、差押登記の解除について了承を得ました。並行して銀行とも協議し、売却による一括返済で抵当権を抹消する段取りを整えました。売却活動では、作業場併設の物件という特殊性から、土地として購入を希望する買い手を中心にアプローチし、約2ヶ月の活動を経て1,180万円での売却が成立しました。売却代金からローン残債と滞納税の全額を清算し、諸費用を差し引いた残額は引っ越し費用と当面の生活資金に充てることができました。
引っ越し先は、堀内さんご夫婦が最も心配されていた母・ハルさんの生活環境を最優先に検討しました。これまで通っていたデイサービスの事業所やかかりつけ医に引き続き通える範囲で、熊谷市内の2LDKの賃貸アパート(家賃5万5,000円、1階・バリアフリー対応)を見つけることができました。ハルさんへの説明は堀内さんご夫婦が丁寧に行い、見学にも一緒に行った上で納得を得ました。堀内さんの板金塗装業については、自宅の作業場を失うことになるため、今後は出張施工を中心とした業態に切り替える方向で事業計画を見直しました。
相談者の声

税金の滞納というのは、本当に恥ずかしくて誰にも言えませんでした。自営業を30年やってきて、資金繰りが苦しいときに税金を後回しにするのは感覚的には珍しくなかったのですが、それが差し押さえにまでなるとは思っていませんでした。督促状が届いても「いつか払えるだろう」と考えていた自分が甘かったと思います。
相談する前は、差押えを解除するには滞納額を先に全額払わないと何も進まないと思い込んでいました。売却代金から清算できるという話を聞いて、初めて「解決の道筋があるんだ」と思えました。ローンの残債だけでなく税金の問題まで一緒に整理してもらえたのは、自分だけでは絶対にできなかったことです。
親父から受け継いだ土地を手放したことは、正直まだ気持ちの整理がついていません。ただ、母が新しい住まいで「ここは段差がなくていいね」と言ってくれたのを聞いて、少し救われました。デイサービスもかかりつけの先生も変わらず通えているので、母の生活は守れたと思います。家賃も以前のローン返済より安く、税金の滞納もなくなったので、夜に通帳を見て焦ることがなくなりました。洋子にはずっと苦労をかけましたが、これからは仕事のやり方を変えて、もう一度やり直すつもりです。
担当者のコメント

堀内さんのケースは、住宅ローンの返済困難に加えて、複数の税金の滞納と差押登記という複合的な問題を抱えていました。初回のご相談時、堀内さんは非常に緊張された様子で、30年間一人で事業をやってこられた方が人に助けを求めるというのは、相当な決断だったのだろうと感じました。
今回の対応で特に重要だったのは、住宅ローンの債権者である銀行と、滞納税の債権者である熊谷市の双方と同時に交渉を進める必要があった点です。差押登記がある物件の売却は通常の任意売却よりも関係者が多く、手続きも複雑になりますが、売却代金からの配分について事前に合意を取り付けることで、スムーズに進めることができました。また、82歳のお母様の生活環境を守ることを最優先に、引っ越し先の選定や見学にも時間をかけました。
自営業の方は、売上の波がある中で税金の支払いを後回しにしがちですが、滞納が積み重なると延滞金が加算され、最終的には差し押さえや公売に発展するリスクがあります。「まだ大丈夫」と思っているうちに状況は悪化します。住宅ローンの返済だけでなく、税金の支払いに不安を感じた段階で、早めにご相談いただくことが大切です。
