「長男だから父の面倒を見るのは当然。投資マンションは妹がもらう」妹夫婦の主張は正しいの?
相談者様のプロフィール
山田正明さん(仮)、54歳、東京都世田谷区在住。
都立高校の教師で、年収は680万円。
妻(51歳・専業主婦)、長男(26歳・システムエンジニア)、次男(23歳・大学院生)の4人家族。
教師歴28年。3か月前に母が肺がんで他界し、現在は認知症の父(80歳・要介護1)の面倒を見ている。
ご相談の内容
正明さんは、母の急逝から3か月が経った頃、遺産分割で深刻な問題に直面していました。母の遺産は預貯金約800万円のほか、20年前に母名義で購入した投資用マンション(都内・賃貸中・推定価値3,500万円、ローン残債1,200万円)がありました。
問題は妹(50歳・専業主婦・埼玉県在住)との遺産分割協議でした。妹は「お兄さんは長男だから実家も父の面倒も見てもらうけど、投資マンションは私がもらいたい」と主張しました。理由として「私は娘だから老後の保障がない」「マンションの管理は女性の方が得意」と説明されました。さらに妹の夫から「義姉さんは公務員で年金も安定しているから、妻の老後も考えてほしい」と電話で直接要求されました。
正明さんは「長男だから」という言葉に縛られ、本当にすべてを背負うべきなのか悩みました。父の今後の介護費用がどの程度必要になるか見通しが立たず、教師の収入では重い負担になる不安がありました。授業中にも相続のことを考えてしまい、生徒からの質問に適切に答えられないことが増えました。
妻は「あなたが決めることだから」と言いながらも、妹夫婦の主張には「ちょっと虫がよすぎる」と内心不満を抱いていました。法学部出身の長男は「法的におかしい」と指摘してくれましたが、具体的な解決策は提示できませんでした。最初は「妹の老後も心配」という気持ちがありましたが、義弟の強硬な態度に「なぜ自分だけが我慢しなければならないのか」という怒りが芽生えました。
インターネットで「相続 長男 責任」「投資マンション 相続」などを検索し、教員共済組合の相続セミナー資料も読みましたが、「長男だから父の面倒を見るのは当然だが、だから遺産が少なくても仕方ないのか」「投資マンションのローン残債は誰が引き継ぐのか」といった疑問が解決できませんでした。長男から「ちゃんと専門家に相談した方がいい」とアドバイスを受け、ようやく相談所に連絡することにしました。
相談所からのご提案・解決までの流れ
初回相談では、正明さんの悩みと妹夫婦の主張を詳しく伺い、まず法定相続分について説明しました。配偶者と子の相続では、父が2分の1、子が2分の1を均等に分割することを確認し、「長男だから相続分が少ない」という考えは法的根拠がないことをお伝えしました。
投資マンションについては、不動産鑑定士による正確な評価を実施しました。賃貸収入(月額12万円)とローン残債を考慮した実質的な価値は約2,300万円と算定されました。また、ローン残債の引き継ぎには銀行の承諾が必要であり、妹単独での引き継ぎは収入面で困難であることが判明しました。
父の将来的な介護費用についても試算を行いました。要介護1から要介護3まで進行した場合、月額約15万円、年間約180万円の費用が見込まれることを示し、これらの費用負担について事前に取り決めることの重要性を説明しました。
妹夫婦との協議では、感情的な対立を避けるため、弁護士を通じた書面でのやり取りを提案しました。法定相続分に基づく分割案として、父の相続分2分の1は将来の介護費用として確保し、残りの2分の1を正明さんと妹で均等分割することを提示しました。投資マンションについては、共有名義とし、賃貸収入から父の介護費用を優先的に充当する仕組みを提案しました。
妹夫婦は当初抵抗しましたが、法的根拠と投資マンションの管理負担の現実を理解し、最終的に合意に至りました。マンションの管理業務は正明さんが担当し、妹には管理の手間をかけさせない代わりに、収益は協議通りに分配することになりました。
相談者の声

相談前は「長男だから我慢すべき」という気持ちと「これは不公平だ」という気持ちの間で揺れていましたが、法定相続分があることを知って気持ちが楽になりました。投資マンションについても、賃貸収入があるからといって簡単に引き継げるものではないことが分かり、現実的な解決策を見つけることができました。
妹には「お兄さんは優しいから分かってくれる」と甘えられていましたが、法的根拠を示すことで対等な話し合いができるようになりました。義弟も最初は強硬でしたが、マンション管理の実務面や銀行との交渉の複雑さを説明すると、現実的な提案として受け入れてくれました。
父の介護費用についても事前に取り決めができたので、安心して介護に専念できます。授業中に相続のことを考えることもなくなり、生徒たちにも集中して向き合えるようになりました。長男の責任と相続の権利は別物だということが分かって、心の重荷が軽くなりました。
担当者のコメント

山田様は、伝統的な「長男の責任」という考えと現代的な平等相続の間で深く悩まれていました。相続では、介護や家業継承などの貢献があっても、それが自動的に相続分に反映されるわけではありません。一方で、将来の介護負担を考慮した遺産分割は可能です。
今回のケースでは、投資マンションという収益性のある不動産が関わっていたため、感情論ではなく数字に基づいた現実的な提案が効果的でした。賃貸収入やローン残債、管理負担などを具体的に示すことで、当事者全員が納得できる解決策に導くことができました。
相続問題では「当然」や「普通」という言葉に惑わされがちですが、法的根拠に基づいた判断が重要です。特に投資不動産が関わる場合は、専門的な評価と将来的な収支計画が不可欠です。早めに専門家に相談することで、感情的な対立を避け、建設的な解決策を見つけることができます。
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