母の介護をしているのに弟が「家は男が継ぐもの」と主張。介護貢献は相続に反映されないの?
相談者様のプロフィール
田中美穂さん(仮)、48歳、神奈川県横浜市青葉区在住。医療事務職で、年収は320万円。夫(52歳・会社員)、長女(22歳・大学4年生)、次女(19歳・大学2年生)の4人家族。パート勤務15年。6か月前に父が急逝し、現在は認知症の母(73歳・要介護2)の介護を担っている。
ご相談の内容
美穂さんは、父の急逝から6か月が経った頃から、相続問題で深刻な悩みを抱えていました。父の遺産は実家の不動産(築35年、推定価値2,800万円)と預貯金約1,200万円。母は軽度認知症で要介護認定を受けており、美穂さんが週3回の通院付き添いと日常的な見守りを担当していました。
問題は弟(45歳・埼玉県在住)との遺産分割協議でした。弟は「実家は男が継ぐもの」「跡取りは自分だから」と主張し、美穂さんには「結婚して他の家の人になったんだから、遺産はもらえないのが普通」と告げました。さらに「母さんの介護も、女性の方が向いているから続けてくれればいい」と言われ、美穂さんは強い不公平感を覚えました。
夜中に目が覚めることが増え、布団の中で「本当にこのままでいいのか」と1〜2時間考え込む日々が続きました。仕事中も相続のことが頭をよぎり、患者さんの保険証処理でミスを犯すことが2回ありました。弟との月2回の電話での話し合いでは、毎回感情的になり「お前は欲深い」「親不孝だ」と言われ、罪悪感と怒りが交錯していました。
夫は理解を示してくれましたが「君の家族のことだから、君が決めればいい」というスタンスで、もう少し積極的に意見を言ってほしいと感じていました。インターネットで「相続 法定相続分」「介護 相続」などを検索し、図書館で相続関連の書籍を2冊読みましたが、「介護をしていることは相続に関係するのか」が最大の疑問でした。職場の先輩から「絶対に泣き寝入りしてはダメ」と励まされ、夫から「法的にはどうなっているのか、専門家に聞いてみた方がいい」と背中を押されて、ようやく相談所に連絡する決意をしました。
相談所からのご提案・解決までの流れ
初回相談では、美穂さんの介護状況と家族関係を詳しく伺い、法定相続分と寄与分制度について丁寧に説明しました。母と子の相続では、法定相続分は母が3分の1、子が3分の2を均等に分割することを確認し、「介護貢献は寄与分として相続分に反映できる可能性がある」ことをお伝えしました。
次に、美穂さんの介護記録の作成をサポートしました。通院付き添いの頻度、日常的な見守り時間、介護にかかった費用などを詳細に記録し、介護日誌として整理しました。また、父の遺言書の有無を確認するため、公証役場での検索や銀行の貸金庫調査を行いましたが、遺言書は見つかりませんでした。
弟との協議では、調停を視野に入れた段階的なアプローチを提案しました。まず、弁護士名義で寄与分を考慮した遺産分割案を送付し、美穂さんの介護貢献を数値化して示しました。具体的には、介護サービス費用相当額として月額約8万円、6か月間で約48万円の寄与があることを計算し、これを相続分に反映させることを求めました。
弟は当初抵抗しましたが、法的根拠を示された段階で態度が軟化しました。最終的に、母の相続分3分の1は将来の介護費用として信託設定し、残りの3分の2のうち美穂さんが6割、弟が4割で分割することで合意に至りました。実家については、母の生存中は美穂さんが管理し、将来的な売却時には協議することになりました。
相談者の声

相談前は弟の言葉に「確かに結婚したから他の家の人間かもしれない」と思い込んでいましたが、法定相続分があることを知って安心しました。何より、介護をしていることがきちんと評価されて、それが相続に反映されることを知ったときは、今までの苦労が報われた気持ちになりました。
弟との関係もギクシャクしていましたが、法的な根拠を示すことで感情的な対立から建設的な話し合いに変わりました。弟も最終的には「姉さんが母さんの面倒を見てくれているから」と理解を示してくれました。夜眠れない日々が続いていましたが、解決方針が決まってからは以前のように眠れるようになりました。
もっと早く相談していれば、無駄に悩む時間が減ったと思います。インターネットの情報だけでは限界があり、専門家に相談することの大切さを実感しました。母の介護も、今後の費用負担について明確になったので、安心して続けられます。
担当者のコメント

田中様は、介護を一手に引き受けながらも、古い家族観との板挟みで深く悩まれていました。相続問題では、法定相続分だけでなく、介護などの貢献を評価する寄与分制度があることを知らない方が多いのが現状です。
今回のケースでは、介護記録の作成と寄与分の数値化が解決の鍵となりました。感情的な対立になりがちな家族間の相続協議も、法的根拠を示すことで冷静な話し合いに導くことができます。介護をしている方は、日頃から介護日誌をつけることをお勧めします。
相続問題は時間が経つほど複雑になります。特に介護が関わる場合は、早めに専門家に相談することで、より良い解決策が見つかります。一人で抱え込まず、まずは相談してみることが大切です。
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