母の遺品整理で3通の遺言書を発見。日付の異なる内容で姉妹が困惑、認知症進行時期の遺言書の有効性に疑問

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相談者様のプロフィール

吉田智恵さん(仮)、45歳、東京都葛飾区亀有在住。
地域の調剤薬局で薬剤師として22年勤務、年収480万円。
夫(47歳・中学校教員)、長女(19歳・美容専門学校1年生)、次女(16歳・高校1年生)の4人家族。今年3月に母親(82歳)を肺炎で亡くし、姉(50歳・専業主婦・川崎市在住)との2人で相続手続きを進めている。

相続財産は葛飾区金町の実家(築40年・土地面積120㎡)、預貯金約1200万円、株式約400万円、生命保険金500万円。

ご相談の内容

母親の葬儀後、実家の整理を進める中で異なる日付の遺言書を3通発見し、その内容が大きく異なることで混乱が生じました。最初に見つかった平成28年作成の自筆証書遺言では「実家と預貯金の半分を智恵に、残りを美代子に」、5月に発見した令和2年作成の公正証書遺言では「実家を智恵に、預貯金と株式を美代子に」、そして6月上旬に姉が見つけた令和4年作成の自筆証書遺言では「全財産を美代子に相続させる」となっていました。

最も新しい令和4年の遺言書について、智恵さんは強い疑問を抱いていました。この時期の母親は認知症の症状が進行しており、同じ話を何度も繰り返したり、物忘れが激しくなったりしていたからです。薬剤師として高齢者の認知症患者と接してきた経験から「そんな状態で正常な判断ができたのだろうか」と疑問を感じていました。

姉の美代子さんは「お母さんの最後の意思だから、この遺言書に従うべき」と主張しましたが、智恵さんには納得できませんでした。夫からは「3通も遺言書があるなんて普通じゃない。専門家に相談した方がいい」と助言を受けましたが、姉との関係悪化を恐れて躊躇していました。6月中旬からインターネットで「認知症 遺言書 無効」などを調べましたが、専門的な内容で理解が追いつかず、7月に入ってついに専門家への相談を決意しました。

相談所からのご提案・解決までの流れ

まず、複数の遺言書が存在する場合の法的な取り扱いについて詳しく説明しました。原則として日付の新しい遺言書が有効となりますが、遺言能力(正常な判断能力)がない状態で作成された遺言書は無効になる可能性があることをお伝えしました。

令和4年の遺言書の有効性を検証するため、以下のステップを提案しました。まず、母親の医療記録を取得し、令和4年当時の認知症の進行状況を客観的に把握。次に、遺言書の筆跡鑑定を実施し、他の時期に書かれた文書と比較検証しました。さらに、介護記録や日記などから、当時の母親の日常生活能力や判断能力の状況を詳細に調査しました。

調査の結果、令和4年時点で母親は中程度の認知症と診断されており、複雑な判断を要する法律行為を行う能力に疑問があることが判明しました。筆跡鑑定でも、以前の文字と比較して明らかに震えや乱れが見られ、文章の構成も不自然でした。

これらの証拠を基に姉の美代子さんと話し合いを実施。客観的な医学的証拠により、令和4年の遺言書は無効である可能性が高いことを説明し、令和2年の公正証書遺言に基づいて遺産分割を進めることで合意に至りました。最終的に智恵さんが実家を相続し、美代子さんが預貯金と株式を相続する形で円満に解決しました。

相談者の声

3通の遺言書が見つかった時は本当にパニック状態でした。特に最後の遺言書で全財産を姉に譲ると書かれていた時は、お母さんに見捨てられたような気持ちになりました。でも、認知症の進行と遺言能力の関係について専門的に調べていただき、客観的な証拠を示してもらえたことで、姉も納得してくれました。

薬剤師として認知症の患者さんを見てきたので、お母さんの状態についてはある程度理解していたつもりでしたが、法的な観点からの遺言能力の判断については全く知識がありませんでした。筆跡鑑定や医療記録の取得など、個人では難しい調査をサポートしていただき、本当に助かりました。お母さんの本当の気持ちを大切にできたと思います。

担当者のコメント

複数の遺言書が見つかるケースは意外に多く、特に認知症が進行した高齢者の場合は遺言能力の有無が重要な争点となります。智恵さんは薬剤師として認知症への理解がおありでしたが、法的な観点からの判断は専門的な知識が必要です。

今回のケースでは、医学的証拠と筆跡鑑定により客観的な判断材料を提示できたことが円満解決の鍵でした。感情論ではなく、科学的・法的根拠に基づいて話し合いを進めることで、姉妹関係を壊すことなく適切な結論に達することができました。遺言書の有効性に疑問を感じる場合は、早期の専門家への相談をお勧めします。

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