弟が15年前から行方不明で遺産分割協議ができない。生存確認もできず相続手続きが完全にストップ状態に

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相談者様のプロフィール

中村裕子さん(仮)、58歳、埼玉県さいたま市浦和区在住。
社会保険労務士として開業15年目、年収650万円。
元は大手企業の人事部で20年勤務した経験を持つ。夫(60歳・建築設計事務所経営)、長男(28歳・外資系IT企業勤務)、長女(25歳・看護師・既婚)の4人家族。今年1月に父親(85歳)を心不全で亡くし、兄(61歳・元サラリーマン・独身)、弟(54歳・行方不明)との3人で相続手続きを進める必要がある。

相続財産は川口市の実家(築45年・土地面積160㎡)、預貯金約2200万円、株式・国債約800万円、貸金庫内現金200万円。

ご相談の内容

父親の葬儀を兄と2人で執り行った後、2月から相続手続きを開始しましたが、弟の博之さんが約15年前から行方不明で連絡が取れないことが判明しました。最後に確認できたのは平成20年頃で、当時は東京都足立区のアパートに住んでいましたが、その後転居し消息不明となっています。遺産分割協議には相続人全員の参加が必要であることを法律家として理解しているため、手続きが完全にストップしてしまいました。

博之さんは学生時代から素行が悪く、就職してもすぐに辞めて借金を重ねるなどトラブルが絶えませんでした。30代前半で父親と大喧嘩をし「もう二度と帰らない」と言い残して家を出て行き、数年間は年賀状のやり取りがありましたが、平成20年頃を最後に音信不通となりました。

兄の信夫さんは「博之なんてもう家族じゃない。勝手に出て行ったんだから放っておけばいい」という態度で、積極的な捜索に協力的ではありません。裕子さんは社会保険労務士として法律知識はあるものの、実際に身内の相続で行方不明者がいるという状況は初めての経験で、「教科書通りにはいかない」現実に直面していました。

5月から住民票の除票、戸籍の附票、年金事務所への照会など法的に可能な範囲で情報収集を試みましたが、個人情報保護法の制約もあり限界を感じていました。不在者財産管理人の選任申立てという制度は知っていましたが、手続きや費用を考えると最善の方法なのか迷いがあり、6月に入って専門機関への相談を決意しました。

相談所からのご提案・解決までの流れ

まず、行方不明の相続人がいる場合の法的手続きについて詳しく説明しました。裕子さんは法律の専門家でしたが、相続実務の経験は限定的だったため、具体的な手続きの流れと費用、期間について明確にお伝えしました。

当相談所では調査専門のチームと連携し、まず博之さんの生存確認調査を実施しました。住民票の職権消除記録、国民年金の納付状況、健康保険の使用履歴など、法的に取得可能な情報を網羅的に調査した結果、博之さんが3年前に千葉県内で生活保護を受給していた記録を発見しました。

現在の詳細な住所は特定できませんでしたが、生存していることが確認できたため、家庭裁判所への不在者財産管理人選任申立ての準備を進めました。申立書の作成、必要書類の収集、予納金の準備など、すべての手続きをサポートしました。

家庭裁判所により不在者財産管理人(弁護士)が選任され、管理人を通じて遺産分割協議を実施しました。博之さんの法定相続分(3分の1)については、現金化して法務局に供託する形で処理し、実家は裕子さんが相続、預貯金と有価証券は兄の信夫さんが相続する内容で合意に至りました。申立てから解決まで約8か月を要しましたが、法的に適正な手続きで相続を完了させることができました。

相談者の声

社会保険労務士として法律知識はあるつもりでしたが、実際の相続実務は想像以上に複雑でした。特に行方不明者がいる場合の調査方法や、不在者財産管理人制度の具体的な運用については、教科書だけでは理解できない部分が多くありました。

15年間音信不通だった弟の生存が確認できた時は複雑な気持ちでしたが、法律家として正しい手続きを踏めたことに安堵しました。一人で調査を続けていたら、個人情報保護の壁に阻まれて生存確認すらできなかったと思います。専門チームによる調査で効率的に進められ、最終的に法的に問題のない形で相続を完了できました。

管理人の弁護士さんも親身になって対応してくださり、兄との関係も悪化することなく解決できたのが何より良かったです。

担当者のコメント

行方不明の相続人がいる場合、個人での調査には限界があり、専門的な調査と法的手続きの両方が必要になります。裕子さんは法律の専門家でしたが、相続実務の特殊性に戸惑われていました。

今回のケースでは、まず生存確認調査により博之さんの生存が判明したことで、失踪宣告ではなく不在者財産管理人制度を活用できました。この判断により手続き期間を大幅に短縮できたのがポイントです。行方不明者がいる相続では、早期の専門機関への相談により適切な解決方法を選択することが重要です。

感情的になりがちな家族関係の中で、客観的な法的手続きを進めることで、最終的に全相続人の権利を保護しながら円満な解決を実現できました。

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