競売の現況調査とは?流れや内容、当日の対応方法を分かりやすく解説

2025.08.21

  • 任意売却
競売の現況調査とは?流れや内容、当日の対応方法を分かりやすく解説

住宅ローンの返済が困難になり、競売の手続きが始まってしまった方にとって、「現況調査」という言葉を初めて聞く方も多いでしょう。突然執行官が自宅にやってくると聞けば、不安や戸惑いを感じるのは当然です。

しかし、現況調査の目的や流れを正しく理解することで、適切な対応を取ることができます。この記事では、競売における現況調査の基本的な仕組みから当日の対応方法まで、実際の流れに沿って詳しく解説します。

そもそも競売における「現況調査」とは?

競売における現況調査とは、裁判所が競売物件の実際の状況を調査する法的な手続きです。この調査は競売手続きの重要な一環として位置づけられており、物件の適正な価値を把握するために必ず実施されます。

調査では物件の物理的な状態だけでなく、誰が住んでいるのか、賃借人はいるのかといった権利関係についても確認が行われます。得られた情報は最終的に競売物件の入札価格に大きな影響を与えるため、債務者にとっても重要な手続きと言えるでしょう。

なぜ行われる?現況調査の目的

現況調査は主に二つの重要な書類を作成するために実施されます。

一つ目は「評価書」の作成です。これは不動産鑑定士が物件の適正な売却価格を算定するための基礎資料となります。建物の構造や設備の状況、周辺環境などを詳細に調査することで、客観的な市場価値を把握することが可能になります。

二つ目は「現況調査報告書」の作成です。この報告書は競売物件の購入を検討している買受希望者向けの情報として活用されます。室内の実際の様子や占有者の有無、引き渡し時の協力度などが記載されるため、入札者が適切な判断を下すための重要な判断材料となります。

これらの書類により、競売手続きの透明性と公平性が確保され、適正な価格での売却が実現されるのです。

誰が来るの?調査の主体は「執行官」

現況調査を実施するのは、裁判所の職員である「執行官」です。

執行官は民事執行法に基づいて任命された公務員であり、競売手続きにおける様々な職務を担当しています。現況調査においても、執行官が中心となって物件の調査を進めることになります。

多くの場合、執行官と共に「評価人」と呼ばれる不動産鑑定士も同行します。評価人は物件の市場価値を専門的な観点から判断する役割を担っており、建物の構造や設備、立地条件などを詳細に確認します。

調査当日は通常2〜3名程度のチームで訪問することが多く、それぞれが専門的な視点から物件の状況を確認していきます。身分証明書の提示を求めることで、正当な調査であることを確認できるでしょう。

いつ行われる?裁判所からの通知から調査までの期間

現況調査の実施時期は、「競売開始決定」の通知が届いてから概ね1〜2ヶ月後が一般的です。ただし、物件の所在地や裁判所の業務状況によって、この期間は前後する場合があります。

調査の具体的な日程については、後述する「期間入札の通知」という書面で事前に知らされます。通知から実際の調査までは通常1〜2週間程度の猶予があるため、その間に心の準備や必要に応じた片付けなどを行うことができます。

なお、競売手続き全体の流れを考えると、現況調査は比較的早い段階で実施されます。この調査結果を基に評価書や現況調査報告書が作成され、その後に期間入札が開始されるためです。

現況調査の具体的な内容と当日の流れ

現況調査当日の流れを事前に把握しておくことで、適切な対応を取ることができます。調査は法的な手続きですが、執行官も人間ですので、協力的な姿勢を示すことで円滑に進行させることが可能です。

ここでは実際の調査がどのような段階を経て進められるのか、時系列に沿って詳しく解説していきます。所要時間は概ね30分から1時間程度ですが、物件の規模や状況によって変動することもあります。

STEP1:裁判所からの通知

現況調査の実施前には、必ず裁判所から「期間入札の通知」という書面が郵送で届きます。この通知書には競売手続きの概要とともに、現況調査の実施予定日時が明記されています。

通知書に記載される調査日時は、基本的に平日の日中に設定されることが多く、具体的な時間帯(例:午後2時から3時の間)も指定されます。もし指定された日時に都合が悪い場合でも、調査は予定通り実施されるため、可能な限り在宅するよう心がけましょう。

通知を受け取った段階で、調査に向けた準備を始めることをお勧めします。特別な準備は不要ですが、身分証明書を手元に用意し、物件に関する書類があれば整理しておくと良いでしょう。

STEP2:執行官による現地調査

調査当日は、予告された時間帯に執行官と評価人が物件を訪問します。まず身分証明書の提示により、正当な調査であることが確認されます。その後、物件の外観から内部まで調査が進められていきます。

調査の進行は物件の状況や占有者の協力度によって変わりますが、一般的には外観の確認から始まり、室内の各部屋を順番に確認していく流れとなります。調査中は写真撮影も行われるため、プライベートな物品については事前に片付けておくことをお勧めします。

執行官からは居住状況や今後の予定について質問される場合がありますが、正直に答えることで調査がスムーズに進行します。虚偽の申告は後々不利になる可能性があるため、避けるべきでしょう。

外観・周辺環境の調査

建物の外観調査では、外壁の状態や屋根の状況、庭や駐車場の有無などが詳細に確認されます。特に建物の劣化状況や修繕が必要な箇所については、写真撮影と共に詳細な記録が取られます。

隣接地との境界についても重要な確認事項となります。境界杭の有無や隣地との関係、越境物の存在などが確認され、後の売却時にトラブルの原因となりそうな要素がないかチェックされます。

周辺環境についても調査対象となり、最寄りの駅やバス停、学校、商業施設などへのアクセス状況が確認されます。これらの情報は物件の利便性を評価する重要な要素となるためです。

室内の状況確認と写真撮影

室内調査では各部屋の間取りや設備の状況が詳しく確認されます。キッチン、バスルーム、トイレなどの水回り設備の動作状況や、エアコン、給湯器などの設備の有無と動作状況もチェック対象となります。

床や壁、天井の損傷状況についても細かく確認され、修繕が必要な箇所があれば記録されます。これらの情報は物件の価値評価に直接影響するため、正確な現状把握が重要となります。

写真撮影については、プライバシーに配慮しながら実施されますが、部屋の状況を正確に記録するために必要な手続きです。個人的な物品や写真などは事前に片付けておくことで、スムーズな調査が可能になります。

所有者・占有者への聞き取り調査

執行官からは現在の居住状況について詳しい質問がなされます。家族構成や居住期間、今後の居住予定などが確認され、これらの情報は現況調査報告書に記載されることになります。

賃借人がいる場合は、賃貸借契約の内容や契約期間、賃料の支払い状況などについても質問されます。賃借人の権利は競売後も一定期間保護されるため、正確な情報提供が求められます。

引き渡しに関する意向についても重要な確認事項です。競売が成立した場合の退去時期や協力度について質問されることがあり、この回答内容は買受希望者の入札判断に影響を与える可能性があります。

現況調査への対応|拒否はできる?協力すべき?

現況調査に対してどのような姿勢で臨むべきか悩む方も多いでしょう。法的な側面と実践的なメリット・デメリットの両方を理解することで、最適な対応方法を選択することができます。

調査への対応によって、その後の競売手続きや売却価格に影響が出る可能性もあるため、慎重に判断することが重要です。

原則として現況調査の拒否はできない

現況調査は民事執行法第57条に基づく法的な手続きであり、執行官には物件への立ち入り調査を行う法的権限が与えられています。そのため、所有者や占有者が調査を拒否したとしても、法的には無効となります。

執行官には「開錠権」と呼ばれる権限も認められており、必要に応じて鍵を開けて調査を実施することが可能です。この権限は物件が空き家の場合だけでなく、占有者が調査を拒否した場合にも行使される可能性があります。

調査の拒否は法的に認められないだけでなく、実際には様々な不利益を招く結果となることが多いため、基本的には協力的な姿勢で臨むことをお勧めします。

調査を拒否・妨害した場合のデメリット

調査を拒否した場合の最も直接的なデメリットは、強制的に鍵を開けられる可能性があることです。この場合、鍵の交換費用は最終的に債務者の負担となることがあり、経済的な負担が増加します。

さらに重要なのは、調査拒否の事実が現況調査報告書に記載されることです。「占有者が非協力的」という情報は買受希望者にとってマイナス要素となり、入札価格の低下につながる可能性が高くなります。

調査が十分に行えなかった場合、物件の状況について「不明」とされる項目が増え、買受希望者はリスクを考慮してより低い価格で入札する傾向があります。これは最終的に債務の残額増加につながる可能性があります。

不在の場合はどうなる?

所有者や占有者が不在の場合でも、現況調査は予定通り実施されます。この場合「不在者調査」として記録され、執行官は開錠権を行使して室内の調査を行うことになります。

不在時の調査では、セキュリティの観点から鍵が交換される場合があります。新しい鍵は後日郵送などで届けられますが、一時的に自宅に入れなくなる可能性もあるため注意が必要です。

不在調査の場合、居住状況や今後の予定について直接確認することができないため、現況調査報告書には「不明」とされる項目が多くなります。これは前述の通り、売却価格に悪影響を与える可能性があります。

調査に協力するメリットとは

調査に協力することで得られる最大のメリットは、物件の状況を正確に伝えることができる点です。設備の状況や修繕履歴などについて詳しく説明することで、物件の価値が適正に評価される可能性が高まります。

また、今後の予定や引き渡しに関する意向を明確に伝えることで、買受希望者に安心感を与えることができます。「協力的な占有者」という印象は、入札価格の向上につながる要因となり得ます。

執行官との良好な関係を築くことで、競売手続き全体がスムーズに進行する可能性もあります。法的な手続きではありますが、人と人との関係性も重要な要素となることは間違いありません。

「現況調査報告書」が競売に与える影響

現況調査の結果は「現況調査報告書」としてまとめられ、競売手続きにおいて重要な役割を果たします。この報告書の内容は、最終的な売却価格に大きな影響を与えるため、その仕組みを理解しておくことが重要です。

報告書は公開情報として扱われるため、内容によっては入札参加者の判断に大きく影響することになります。

競売の「3点セット」とは?

競売物件に関する情報は「3点セット」と呼ばれる3つの書類で構成されています。

まず「物件明細書」は、物件の基本的な情報や権利関係について記載された書類です。土地建物の面積や所在地、担保権の設定状況などが詳細に記載されています。

「評価書」は不動産鑑定士が作成する書類で、物件の適正な市場価値が算定されています。立地条件や建物の状況、周辺環境などを総合的に評価した結果が記載され、最低売却価格の算定根拠となります。

「現況調査報告書」は今回説明している調査の結果をまとめた書類で、物件の実際の状況や占有者の状況などが詳細に記載されています。買受希望者にとって最も実践的な情報源となる書類です。

現況調査報告書は誰でも閲覧できる

現況調査報告書はBIT(不動産競売物件情報サイト)などで一般公開されており、競売物件の購入を検討している誰もが閲覧することができます。インターネット上で24時間いつでもアクセス可能であり、写真付きで詳細な情報が提供されています。

この報告書は買受希望者が入札価格を決定する際の重要な判断材料となります。物件の実際の状況や占有者との関係、引き渡し時の協力度などが具体的に記載されているため、リスク評価において極めて重要な資料となります。

公開される情報には個人のプライバシーに関わる内容も含まれる場合がありますが、競売手続きの透明性確保という公益性の観点から、一定の情報公開は法的に認められています。

報告書の内容が売却価格を左右する

現況調査報告書に記載される内容は、直接的に入札価格に影響を与えます。室内の状況が良好で、設備が正常に機能している場合は、買受希望者の安心感につながり、より高い価格での入札が期待できます。

一方で、室内の状況が悪い、占有者が非協力的といった情報が記載されると、買受希望者はリスクを考慮してより低い価格で入札する傾向があります。特に引き渡し時のトラブルが予想される場合、その影響は顕著に現れます。

賃借人がいる場合の契約内容や、近隣トラブルの有無なども価格に影響する要因となります。これらの情報が詳細に記載されることで、買受希望者は総合的な判断を下すことが可能になりますが、ネガティブな情報は確実に価格の下落要因となります。

競売の現況調査に関してよくある質問(Q&A)

現況調査について多くの方が抱く疑問や不安について、実際によくある質問とその回答をまとめました。

Q. 部屋が散らかっていても大丈夫?

現況調査では物件のありのままの状況を確認することが基本であるため、多少散らかっていても調査に支障はありません。ただし、あまりに乱雑な状態だと、買受希望者に悪印象を与える可能性があります。

写真撮影も行われることを考慮すると、常識の範囲で片付けておくことをお勧めします。特に個人的な物品や重要書類などは事前に整理し、プライバシーの保護にも配慮しましょう。

清掃や整理整頓により物件の印象が良くなれば、それが売却価格の向上につながる可能性もあります。無理のない範囲で準備をしておくと良いでしょう。

Q. 賃借人として住んでいる場合も調査は行われる?

賃借人が居住している場合でも、現況調査は必ず実施されます。賃借権は競売手続きにおいても保護される権利ですが、物件の状況確認は避けることができない手続きとなります。

調査では賃貸借契約の内容について詳しく質問される場合があります。契約期間や賃料の金額、敷金の有無などが確認されるため、契約書を手元に用意しておくとスムーズに対応できます。

賃借人の権利は法的に保護されているものの、新しい所有者との関係については不透明な部分もあります。必要に応じて法的なアドバイスを求めることも検討しましょう。

Q. 調査の前に準備しておくものはありますか?

基本的には特別な準備は必要ありませんが、身分証明書は必ず手元に用意しておきましょう。執行官による身元確認の際に必要となります。

物件に関する書類(権利証、修繕履歴、設備の取扱説明書など)があれば、調査がより円滑に進む可能性があります。ただし、これらは必須ではないため、入手困難な場合は無理をする必要はありません。

賃借人がいる場合は賃貸借契約書、管理費や修繕積立金の資料などがあると、より正確な情報提供が可能になります。

まとめ:現況調査は冷静な対応を。競売回避の相談も視野に

現況調査は競売手続きにおける法的な手続きであり、避けることのできないプロセスです。重要なのは、この調査に対して冷静かつ協力的な姿勢で臨むことです。感情的になったり拒否的な態度を取ったりしても、状況の改善にはつながりません。

調査結果は最終的な売却価格に影響を与えるため、可能な限り物件の価値を適正に評価してもらえるよう努めることが大切です。正直で協力的な対応は、結果的に自分自身の利益にもつながります。

ただし、競売手続きが進行している段階でも、「任意売却」という選択肢が残されている場合があります。

任意売却では市場価格に近い金額での売却が期待でき、競売よりも有利な条件で解決できる可能性があります。現況調査が行われた後でも、状況によっては任意売却への切り替えが可能な場合もあるため、一人で悩まずに不動産や法律の専門家に相談することをお勧めします。

早めの相談により、より良い解決策が見つかる可能性があることを忘れないようにしましょう。

この記事を書いた人
ポートレート 笹井信弘
笹井 信弘
ファイナンスや法令に関する豊富な知識と経験を活かし、資産運用や不動産に関する悩みを抱える方々の相談に親身に対応しています。相談員として一人ひとりの状況に寄り添い、最適な解決策を提案するだけでなく、より多くの方が安心して資産や不動産に向き合える社会を目指し、書籍の執筆・出版活動にも力を入れています。
主な著書:「お金の教養」完全ガイド住宅ローンが苦しくなったら読む本:任意売却の正しい知識、など

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