住宅を購入した時は問題なかった住宅ローンも、時間が経つにつれて「家の価値がローン残高を下回っている」状況に陥ることがあります。これがいわゆる「オーバーローン」です。
転勤や離婚、相続など、人生の節目で家を売却する必要が生じた時、オーバーローンの状態では思うように売却が進まず、大きな悩みの種となってしまうでしょう。しかし、適切な知識と対処法を知っていれば、オーバーローンでも家を売却することは可能です。
この記事では、オーバーローンの基本的な仕組みから具体的な解決策まで、不動産と法律の専門家が分かりやすく解説します。読み終える頃には、あなたの状況に最適な選択肢が見つかり、前向きに行動を起こせるようになるはずです。
そもそも住宅ローンの「オーバーローン」とは?

オーバーローンについて正しく理解することは、適切な対処法を選ぶための第一歩となります。まずは基本的な概念を整理し、あなたの現状がオーバーローンに該当するかどうかを確認してみましょう。また、なぜオーバーローンが発生するのか、その背景にある要因についても詳しく見ていきます。
オーバーローンとは「家の価値 < ローン残高」の状態
オーバーローンとは、現在の不動産の市場価値が住宅ローンの残高を下回っている状態を指します。例えば、現在の家の査定額が2,500万円なのに対し、ローン残高が3,000万円ある場合、500万円のオーバーローンということになります。
これに対して「アンダーローン」は、不動産の市場価値がローン残高を上回っている状態です。アンダーローンの場合、家を売却した代金でローンを完済でき、さらに手元に現金が残る可能性もあります。
オーバーローンの状態では、家を売却してもローンを完済できないため、原則として金融機関の抵当権を外すことができません。そのため、通常の売買取引が困難になってしまいます。
なぜオーバーローンになる?考えられる3つの原因
オーバーローンが発生する主な原因は、不動産価値の下落とローン残高の減少スピードの差にあります。
不動産市場の変化による価格下落が最も一般的な要因です。購入時から経済情勢や地域の開発状況が変わり、周辺相場が大きく下がることがあります。特に新築で購入した場合、購入直後から2割程度価値が下がることも珍しくありません。
ローンの元本返済が進んでいないことも要因の一つです。住宅ローンは初期の段階では利息の割合が高く、元本の減少スピードが遅くなります。元利均等返済で3,000万円を35年ローンで借りた場合、10年後でも元本は約600万円しか減っていません。
購入時の諸費用を含めてローンを組んだ場合も、オーバーローンになりやすい状況を作り出します。不動産取得税や登記費用、仲介手数料などを含めて借り入れると、実際の不動産価値を上回る金額のローンを抱えることになってしまいます。
【簡単チェック】あなたがオーバーローンか確認する2つのステップ
現在の状況を把握するために、以下の手順で確認してみましょう。
ステップ1:住宅ローンの残高を確認する
金融機関から年1回送付されるローン残高証明書や、ネットバンキングで現在の残高を確認します。複数の金融機関から借り入れがある場合は、すべての残高を合計してください。
ステップ2:不動産の現在価値を調べる
不動産ポータルサイトで周辺の類似物件の売り出し価格をチェックしたり、一括査定サイトを利用して概算価格を把握します。より正確な価格を知りたい場合は、複数の不動産会社に査定を依頼することをお勧めします。
この2つの数値を比較し、ローン残高の方が大きければオーバーローンの状態です。差額が大きいほど、売却時により多くの現金が必要になることを意味しています。
オーバーローンを放置する危険性|売却や生活に及ぼす3つのリスク

オーバーローンの状態を放置することで生じるリスクは、単に家が売れないということだけではありません。将来的な生活設計や家族関係にも深刻な影響を与える可能性があります。早期に状況を把握し、適切な対策を講じることの重要性を理解しておきましょう。
リスク1:原則として家を売却できない
オーバーローンの最も直接的な問題は、通常の方法では家を売却できないことです。
住宅ローンを借りる際に設定された抵当権は、ローンが完済されるまで解除されません。買主にとって抵当権が残ったままの不動産は、将来的に競売にかけられるリスクがあるため、購入を避けるのが一般的です。
転勤や家族構成の変化で売却が必要になっても、オーバーローンの状態では身動きが取れなくなってしまいます。住み替えを検討している場合、新居の購入資金計画にも大きな影響を与えることになるでしょう。
また、維持費や税金などの固定費を支払い続けながら、実際には住んでいない家を所有し続けなければならない状況も生まれかねません。
リスク2:差額を現金で用意しないと売却できない
オーバーローンの家を売却するためには、ローン残高と売却価格の差額を現金で準備する必要があります。
例えば、ローン残高が3,000万円で売却価格が2,500万円の場合、500万円を現金で用意しなければローンを完済できません。この金額が用意できない限り、抵当権を外すことができず、売却手続きを進めることができないのです。
多くの世帯にとって、数百万円単位の現金を短期間で準備することは容易ではありません。貯蓄を取り崩したり、親族から借り入れをしたりする必要が生じ、家計に大きな負担をかけることになります。
さらに、市場環境の変化により不動産価格がさらに下落した場合、必要な現金額がより膨らんでしまう可能性もあるのです。
リスク3:離婚・相続時に大きなトラブルの原因になる
オーバーローンは、離婚や相続といった人生の重要な局面で深刻なトラブルを引き起こす要因となります。
離婚の財産分与において、オーバーローンの不動産は「負の財産」として扱われます。夫婦のどちらが不動産とローンを引き継ぐかで争いになったり、売却して清算しようとしても差額の現金が用意できずに話し合いが長期化したりすることがあります。
相続の場面では、相続人がオーバーローンの不動産を受け継ぐかどうかで判断に迷うことになるでしょう。相続放棄を選択すれば借金を引き継がずに済みますが、他の財産もすべて放棄することになってしまいます。
また、共有名義でオーバーローンの不動産を相続した場合、共有者全員の合意なしには売却できないため、より複雑な問題に発展する可能性もあります。
【状況別】オーバーローンでも家を売却するための5つの対処法

オーバーローンの状態でも、適切な方法を選択すれば家を売却することは可能です。それぞれの対処法には特徴があり、あなたの経済状況や将来の計画に応じて最適な選択肢が異なります。各方法のメリットとデメリットを理解し、専門家とも相談しながら慎重に検討することが重要です。
対処法1:自己資金で不足分を完済する
最もシンプルな解決方法は、売却価格とローン残高の差額を自己資金で補填することです。
この方法のメリットは、通常の売買取引として進められるため、手続きがスムーズで買主にとっても安心感があることです。売却期間も短縮でき、希望に近い価格での売却が期待できるでしょう。
一方で、まとまった現金が必要になることがデメリットです。500万円のオーバーローンであれば500万円の現金を用意しなければなりません。貯蓄が十分にある場合や、親族からの援助が期待できる場合に適した方法といえます。
また、売却後の住居確保のための資金も別途必要になることを忘れてはいけません。売却代金で新居の購入資金を賄う予定だった場合、資金計画の見直しが必要になります。
対処法2:住み替えローンを利用して新しい家を買う
住み替えを前提とする場合、住み替えローン(買い替えローン)を利用する方法があります。
住み替えローンは、現在の住宅ローンの残債と新居の購入資金を合わせて借り入れできる商品です。オーバーローン分も含めて新たなローンを組むことで、自己資金なしでの住み替えが可能になります。
金融機関によって条件は異なりますが、現在の住宅ローンと同じ銀行で手続きをすると優遇金利が適用されることもあります。売却と購入のタイミングを調整しやすい点も大きなメリットです。
ただし、新たなローンの借入額が大きくなるため、審査が厳しくなる傾向があります。年収や勤続年数、他の借り入れ状況などが総合的に判断されるため、事前に金融機関との相談が不可欠です。
対処法3:無担保ローン(フリーローン)で不足分を借り入れる
オーバーローン分を無担保ローンやフリーローンで借り入れて売却する方法もあります。
この方法なら、自己資金が不足していても売却を進めることができます。住宅ローンより金利は高くなりますが、借入期間を調整することで月々の返済額をコントロールできる点がメリットです。
銀行のフリーローンであれば比較的低金利で借り入れできることもあります。ただし、住宅ローンと比較すると金利が高く、返済期間も短いため月々の負担が重くなる可能性があります。
借り入れ前には必ず返済計画を立て、家計に無理のない範囲で利用することが重要です。売却後の住居費用なども含めて総合的な資金計画を検討しましょう。
対処法4:任意売却で金融機関の合意を得て売却する
経済的に困窮している場合、任意売却という選択肢があります。
任意売却とは、住宅ローンの返済が困難になった場合に、金融機関の合意を得て不動産を売却する手続きです。売却代金でローンを完済できなくても、金融機関が抵当権の解除に応じてくれるため、競売を避けて市場価格に近い金額で売却できます。
競売と比較して高い価格で売却できることが多く、残債も圧縮できる可能性があります。また、引っ越し費用の一部を売却代金から配分してもらえることもあります。
ただし、任意売却を行うと信用情報に事故情報が登録され、一定期間新たな借り入れが困難になります。また、残債は免除されるわけではなく、売却後も返済義務が残ることを理解しておく必要があります。
対処法5:リースバックで今の家に住み続ける
現在の家に住み続けたい場合は、リースバック(セール・アンド・リースバック)という方法があります。
リースバックは、不動産会社などに家を売却した後、賃貸として同じ家に住み続けるサービスです。売却代金を受け取ることができ、引っ越しの必要もありません。将来的に資金に余裕ができれば買い戻すことも可能です。
子どもの学区を変えたくない場合や、高齢で住み慣れた環境を離れたくない場合に適している方法です。売却価格は市場価格より低くなる傾向がありますが、住環境を変えずに資金調達できるメリットは大きいでしょう。
デメリットとしては、家賃の支払いが発生することと、将来的な買い戻し価格が売却価格より高く設定される可能性があることです。長期的な住居費用を慎重に検討する必要があります。
【事例別】オーバーローンにまつわる法律トラブルと解決策

オーバーローンの問題は、単なる不動産売買の話にとどまらず、離婚や相続といった法的な局面で複雑な問題を引き起こすことがあります。これらのトラブルを未然に防ぎ、適切に解決するためには、法律の知識と専門家のサポートが不可欠です。具体的な事例を通じて、よくあるトラブルパターンと解決のポイントを見ていきましょう。
ケース1:離婚時の財産分与はどうなる?
離婚の際、オーバーローンの不動産をどのように処理するかは非常にデリケートな問題となります。
財産分与では、夫婦が婚姻期間中に築いた財産を公平に分配することが原則です。しかし、オーバーローンの不動産は「負の財産」として扱われるため、誰がその負債を引き継ぐかが争点になります。
実務では、不動産の名義人がローンも引き継ぐケースが多くなっています。ただし、収入状況によっては金融機関がローンの継続を認めない場合もあり、その際は連帯保証人の変更や追加担保の提供が求められることもあります。
売却して清算する場合は、オーバーローン分の現金をどちらが負担するかを決める必要があります。双方の収入や財産状況を考慮し、公平な負担割合を決めることが重要です。調停や審判になった場合、裁判所が具体的な解決方法を示すこともあります。
ケース2:相続した家がオーバーローンだった場合は?
相続でオーバーローンの不動産を引き継ぐ場合、相続人は慎重な判断が求められます。
相続では、プラスの財産とマイナスの財産をすべて引き継ぐのが原則です。オーバーローンの不動産を相続すると、不動産と同時に住宅ローンの債務も承継することになります。
限定承認を選択すれば、相続財産の範囲内でのみ債務を負担することができます。ただし、相続人全員の同意が必要で、手続きも複雑になるため、専門家のサポートが不可欠です。
相続放棄を選択する場合は、相続開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。相続放棄をすると住宅ローンの負担はなくなりますが、他のプラスの財産もすべて放棄することになります。
団体信用生命保険に加入していた場合は、被相続人の死亡により住宅ローンが完済されるため、オーバーローンの問題は解消されます。保険の加入状況を早期に確認することが重要です。
住宅ローンのオーバーローンに関するよくある質問

オーバーローンについて多くの方が抱く疑問や不安について、専門家の立場から明確にお答えします。これらの情報を参考に、あなたの状況に最適な判断を行ってください。
Q. 任意売却をするとブラックリストに載りますか?
任意売却自体がブラックリストに登録されるわけではありませんが、その前段階での返済遅延が信用情報に影響を与えます。
任意売却を検討する状況では、すでに住宅ローンの返済が困難になっているケースがほとんどです。返済の遅延や滞納が発生すると、信用情報機関に事故情報として登録され、新たなクレジットカードの作成や各種ローンの利用が制限されます。
登録期間は信用情報機関によって異なりますが、一般的に完済から5年程度は情報が残ります。任意売却により残債が発生した場合、その完済まで事故情報が継続することもあります。
ただし、任意売却は競売よりも有利な条件で解決できる可能性が高く、経済的な立て直しを図るための現実的な選択肢といえるでしょう。
Q. 不動産会社ならどこに相談しても同じですか?
不動産会社によって得意分野や対応力には大きな差があります。オーバーローンの売却は専門的な知識と経験が必要な分野です。
一般的な売買仲介を主業務とする会社では、オーバーローンの複雑な手続きに十分対応できない場合があります。任意売却や住み替えローンの実績が豊富な会社を選ぶことが重要です。
また、司法書士や税理士、ファイナンシャルプランナーなどの専門家とのネットワークを持つ会社であれば、総合的なサポートを受けることができます。相談時には、類似ケースの対応実績や解決までの流れについて具体的に説明してもらいましょう。
複数の会社に相談し、提案内容や対応の質を比較検討することをお勧めします。
Q. 相談するのに費用はかかりますか?
初回相談については、多くの不動産会社や専門家が無料で対応しています。
不動産会社の場合、売却の可能性があるお客様との関係構築を重視するため、初回相談は無料が一般的です。ただし、詳細な査定や具体的な提案書の作成については、会社によって対応が異なります。
法律相談については、30分5,000円程度の相談料が設定されている場合が多いですが、自治体の法律相談や法テラスを利用すれば無料で相談できることもあります。
相談前に料金体系を確認し、予算に応じて相談先を選択することが大切です。無料相談であっても、事前に質問内容を整理しておくことで、より有効な時間の使い方ができるでしょう。
まとめ:オーバーローンの悩みは一人で抱えずに、まずは専門家へ相談を
オーバーローンは多くの住宅所有者が直面する可能性のある問題ですが、適切な対処法を知ることで解決への道筋を見つけることができます。
まずは現在のローン残高と不動産の市場価値を正確に把握し、オーバーローンの程度を確認してください。その上で、自己資金での解決、住み替えローンの利用、任意売却、リースバックなど、あなたの状況に最適な方法を選択することが重要です。
離婚や相続といった法的な問題が絡む場合は、早期に専門家に相談することで、より良い解決策を見つけることができるでしょう。
オーバーローンの問題は時間の経過とともに状況が変化する可能性があります。一人で悩み続けるのではなく、不動産や法律の専門家に相談し、具体的な行動計画を立てることが解決への第一歩となります。あなたの状況に応じた最適な解決策は必ず見つかります。