離婚が成立すれば、配偶者との法的な関係は終わります。しかし、住宅ローンや車のローンで連帯保証人になっていた場合、離婚届を提出しただけでは保証契約から自動的に外れることはできません。
元配偶者が返済を滞納すれば、離婚後であってもあなたに一括請求が届く可能性があります。新しい人生をスタートさせたはずなのに、元配偶者の債務に縛られ続けるリスクを抱えたままでは、安心して生活できないでしょう。
この記事では、離婚時に連帯保証人から外れるための具体的な方法と手続きの流れを解説します。金融機関に認められる4つの方法や、どうしても外れられない場合の対処法まで、実践的な情報をお伝えしますので、離婚協議を進める前にぜひご確認ください。
はじめに:離婚しても借金の連帯保証人から自動的には外れません

離婚すると戸籍上の配偶者関係は解消されますが、連帯保証契約は婚姻関係とは別の法的な契約です。そのため、離婚届を提出しても保証人としての法的責任は継続します。
住宅ローンや事業資金の借入で配偶者の連帯保証人になっている場合、元配偶者が返済を続けている限り表面化しませんが、滞納や延滞が発生すれば債権者である金融機関から直接請求を受けることになります。
離婚時の財産分与や慰謝料の取り決めと合わせて、連帯保証人の問題も必ず整理しておく必要があります。後回しにすると、離婚後の新生活に大きな支障をきたす可能性があるため、離婚協議の段階から対策を講じることが重要です。
まずは確認!連帯保証人と「ただの保証人」の責任の重さの違い
連帯保証人は、通常の保証人と比較して極めて重い責任を負います。
通常の保証人には「催告の抗弁権」と「検索の抗弁権」という2つの権利があります。催告の抗弁権とは、債権者が保証人に請求してきた際「まず主債務者に請求してください」と主張できる権利です。検索の抗弁権は「主債務者には支払える財産があるはずなので、まずそちらから回収してください」と主張できる権利を指します。
しかし、連帯保証人にはこれらの権利が一切認められていません。債権者は主債務者である元配偶者が支払い能力を持っていても、連帯保証人に直接一括請求できます。民法上、連帯保証人は主債務者とほぼ同等の支払い義務を負うため、「保証」という言葉から受ける印象よりもはるかに重い責任を負っていることを理解しておく必要があります。
なぜ離婚だけでは連帯保証契約が解除されないのか?
連帯保証契約は、債務者本人と債権者、そして保証人の三者間で締結される金銭消費貸借契約に付随する契約です。この契約は民法に基づく独立した法的な約束であり、婚姻関係の有無とは切り離されています。
銀行などの金融機関が連帯保証人を求めるのは、主債務者が返済不能になった場合のリスクヘッジのためです。離婚したからといって自動的に保証契約を解除できるとなれば、債権者の権利が一方的に失われてしまいます。
そのため、連帯保証人から外れるには債権者である金融機関の同意が必須となります。離婚協議書や公正証書で「連帯保証人から外れる」と当事者間で取り決めても、それだけでは法的効力を持ちません。必ず金融機関との正式な手続きを経る必要があります。
要注意!離婚後も配偶者の連帯保証人を続ける3つのリスク

連帯保証人のままでいることは、離婚後の生活に深刻な影響を及ぼします。元配偶者の返済状況を把握できないまま時間が経過すると、予期せぬタイミングで問題が表面化する可能性があります。
ここでは、連帯保証人を続けることで生じる具体的なリスクを3つ解説します。これらのリスクを理解することで、離婚時に保証契約の整理がいかに重要かがわかるでしょう。
リスク1:元配偶者が滞納!ある日突然、あなたに一括請求が届く
元配偶者が住宅ローンの返済を数か月滞納すると、金融機関から連帯保証人であるあなたに督促状が届きます。この時点で残債の一括返済を求められるケースも少なくありません。
たとえば、残債が2,000万円ある住宅ローンで元配偶者が3か月連続で返済を怠った場合、金融機関は期限の利益を喪失させ、残り全額の即時支払いを請求できます。連帯保証人には催告の抗弁権がないため、「元配偶者に先に請求してください」という主張は通用しません。
請求を無視すれば、あなたの給与や預金口座が差し押さえられる可能性もあります。離婚後に別の生活を築いていても、元配偶者の債務不履行によって突然経済的な危機に陥るリスクを常に抱えることになるのです。
リスク2:あなたの信用情報に影響も?新しいローンが組めない可能性
連帯保証人として債務を抱えている状態は、あなた自身の与信審査に影響します。住宅ローンやマイカーローンを新たに組もうとした際、既存の保証債務が審査で考慮されるためです。
個人信用情報機関であるCICやJICCには、連帯保証人としての情報も登録されています。元配偶者が滞納を起こせば、その事故情報があなたの信用情報にも記録される可能性があります。
再婚して新しい家族と住宅を購入したいと考えても、元配偶者の住宅ローンの連帯保証人である限り、金融機関は「既に大きな債務を抱えている」と判断します。その結果、希望する融資額が借りられなかったり、審査そのものが通らなかったりする事態も起こりえます。将来のライフプランに大きな制約が生じるリスクを認識しておくべきでしょう。
リスク3:万が一の場合、あなたの家族にまで迷惑が及ぶことも
連帯保証人としての債務は、あなたが亡くなった場合に相続の対象となります。つまり、あなたの子供や再婚相手が、元配偶者の債務を引き継ぐ可能性があるのです。
民法上、相続人は被相続人の権利だけでなく義務も承継します。保証債務も例外ではありません。相続放棄をすればこの責任から逃れられますが、その場合はプラスの財産もすべて放棄しなければなりません。
また、元配偶者が自己破産や債務整理をした場合、金融機関は連帯保証人に全額を請求してきます。あなたが支払えなければ、最終的にあなた自身も債務整理を検討せざるを得なくなります。離婚によって関係を清算したはずの元配偶者の問題が、あなたの大切な家族にまで影響を及ぼす可能性があることを忘れてはいけません。
離婚時に連帯保証人を外れたい!金融機関に認められるための4つの方法

連帯保証人から外れるには、債権者である金融機関の承諾が不可欠です。金融機関は貸し倒れリスクを回避するために保証人を設定しているため、単に「離婚したから外してほしい」という理由だけでは応じてもらえません。
ここでは、金融機関が承諾する可能性がある4つの具体的な方法を解説します。それぞれメリットとデメリットがあるため、あなたの状況に合った方法を選択することが重要です。
方法1:代わりの連帯保証人を立てる(保証人の差し替え)
最も一般的な方法は、あなたに代わる新しい連帯保証人を用意することです。金融機関にとって保証体制が維持されるため、比較的承諾を得やすい方法といえます。
代わりの保証人には、元配偶者の両親や兄弟姉妹などの親族が候補となります。ただし、金融機関は新しい保証人の支払い能力を厳格に審査します。安定した収入があり、他に大きな借入がないことが求められるため、定年退職している高齢の親では認められないケースもあります。
また、新しい保証人になってくれる人を見つけること自体が難しい場合も少なくありません。元配偶者の親族に協力を依頼しても、離婚という事情から関係が悪化していれば、交渉は困難になるでしょう。保証人の差し替えを検討する際は、早めに元配偶者と話し合い、協力してもらえる親族を探す必要があります。
方法2:ローンを借り換えて、単独名義にする
元配偶者が単独で新たにローンを組み直し、既存の借入を完済する方法です。これにより、あなたが連帯保証人となっている元の契約が消滅します。
この方法のメリットは、保証人の差し替えが不要で、元配偶者一人の信用力で処理できる点です。ただし、元配偶者に十分な収入と信用情報がなければ、借り換え審査に通りません。離婚によって世帯収入が減少している場合、単独での融資承認は厳しくなります。
また、借り換えには諸費用がかかります。登記費用や事務手数料、場合によっては保証料なども必要となるため、数十万円の初期費用を誰が負担するかも協議しなければなりません。さらに、金利条件が悪化する可能性もあります。現在の低金利で借りているローンを、条件の劣る新規ローンに借り換えることで、元配偶者の負担が増大するリスクも考慮が必要です。
方法3:担保となる別の資産を提供する(物的担保)
人的保証である連帯保証人の代わりに、不動産などの物的担保を提供する方法です。元配偶者が所有する別の不動産に抵当権を設定したり、有価証券を担保に差し入れたりすることで、金融機関の承諾を得られる可能性があります。
この方法が有効なのは、元配偶者に担保価値のある資産が十分にある場合に限られます。たとえば、親から相続した土地や、既に完済済みの投資用マンションなどがあれば、それらを担保として活用できます。
ただし、担保評価額が借入残高を上回る必要があるため、ハードルは決して低くありません。また、担保となる不動産に既に別の抵当権が設定されている場合、後順位の担保設定では金融機関が認めないこともあります。元配偶者が物的担保を提供できる資産を持っているかどうか、そしてその資産が担保として十分な価値を持つかを事前に確認することが重要です。
方法4:対象の資産(家や車)を売却してローンを完済する
連帯保証の対象となっている住宅や車を売却し、その売却代金でローンを完済する方法です。債務そのものがなくなれば、連帯保証契約も自動的に消滅します。
売却価格がローン残債を上回る「アンダーローン」の状態であれば、売却代金で完済した後に残った資金を財産分与として分けることができます。この場合、最もシンプルかつ確実に連帯保証人から外れられる方法といえるでしょう。
一方、売却価格がローン残債に満たない「オーバーローン」の場合は任意売却を検討する必要があります。任意売却では金融機関の同意を得て売却し、残った債務については返済計画を立て直します。ただし、この場合も残債の返済義務は残るため、その債務について新たに連帯保証人を求められないよう、交渉が必要です。
売却を選択する際は、元配偶者が住み続けたいと考えている場合との調整や、子供の生活環境への影響なども考慮しなければなりません。
連帯保証人を外れるための具体的な3ステップ

連帯保証人から外れるための手続きは、計画的に進める必要があります。感情的な対立が生じやすい離婚協議の中で、法的な手続きと金融機関との交渉を同時に進めることになるため、段階を踏んで着実に進めることが重要です。
ここでは、実際に連帯保証人を外れるための手続きを3つのステップに分けて解説します。各ステップで確認すべきポイントを押さえて、スムーズに手続きを進めましょう。
ステップ1:現状把握|ローン契約書を確認し、金融機関に相談
まずは、自分がどのような契約の連帯保証人になっているのかを正確に把握することから始めます。ローン契約書や金銭消費貸借契約書を取り寄せて、以下の内容を確認してください。
借入の種類と目的、現在の残債額、月々の返済額と返済期日、そして契約上の債務者と連帯保証人の記載内容です。複数のローンで連帯保証人になっている場合もあるため、住宅ローンだけでなく車のローンや事業資金の借入についても漏れなく確認しましょう。
次に、債権者である金融機関に連絡を取ります。この段階では正式な変更手続きではなく、「離婚に伴い連帯保証人を外れたい」という相談として窓口を訪問します。金融機関の担当者から、どのような方法であれば保証人の変更が可能か、必要な手続きや書類は何かといった情報を得ることができます。この時点で、保証人変更の難易度や現実的な選択肢が見えてくるでしょう。
ステップ2:元配偶者との話し合い|決めておくべきことリスト
金融機関との相談で得た情報をもとに、元配偶者と具体的な協議を行います。連帯保証人の問題は、財産分与や慰謝料、養育費などの他の離婚条件と密接に関連するため、総合的に話し合う必要があります。
協議すべき主な内容は、まずどの方法で連帯保証人から外れるかの選択です。保証人の差し替えなのか、借り換えなのか、それとも売却なのかを決定します。次に、手続きにかかる費用の負担をどちらがするのか、あるいは按分するのかを明確にします。
住宅を売却する場合は、その売却代金の分配方法や、売却までの間の住宅ローン返済の負担をどうするかも取り決めが必要です。また、仮に連帯保証人から外れられなかった場合の対策についても話し合っておくべきでしょう。
これらの合意内容は必ず書面に残し、できれば公正証書として作成することを強くお勧めします。口約束だけでは後のトラブルの元となります。弁護士や司法書士などの専門家に立ち会ってもらうことも検討してください。
ステップ3:金融機関での手続き
元配偶者との合意ができたら、金融機関で正式な変更手続きを行います。必要な書類は金融機関によって異なりますが、一般的には以下のものが求められます。
連帯保証人変更申請書または契約変更申請書、離婚の事実を証明する戸籍謄本、新しい連帯保証人の印鑑証明書と収入証明書類、そして本人確認書類などです。借り換えの場合は新規の融資申込書類一式が必要となります。
手続きには通常、数週間から1か月程度の時間がかかります。金融機関内部での審査があるため、即日完了することはありません。審査の結果、希望通りに承認されない可能性もあることを念頭に置いておきましょう。
正式に変更手続きが完了したら、必ず変更契約書や完了通知書などの書面を受け取り、保管してください。将来的に「まだ連帯保証人のままだ」といった誤解が生じないよう、証拠となる書類は重要です。
どうしても連帯保証人をやめられない場合の次善策

元配偶者の収入状況や、代わりの保証人が見つからないなどの理由で、どうしても連帯保証人から外れられないケースもあります。金融機関が変更に応じてくれない場合でも、放置するのではなく、リスクを最小限に抑える対策を講じることが重要です。
ここでは、連帯保証人を続けざるを得ない場合に、自分を守るために取るべき対応策を解説します。完全な解決策ではありませんが、将来のトラブルを予防する効果が期待できます。
元配偶者と公正証書を作成し、支払いの約束を形に残す
連帯保証人から外れられない場合でも、元配偶者との間で公正証書を作成しておくことが重要です。公正証書とは、公証役場で公証人が作成する公文書で、通常の契約書よりも高い証明力を持ちます。
公正証書には、元配偶者が確実にローンを返済すること、万が一あなたが連帯保証人として返済を迫られた場合は元配偶者がその全額を負担すること、そしてあなたが立て替えた金額については速やかに返済することなどを明記します。
この公正証書自体が金融機関に対してあなたの責任を免除するものではありません。しかし、元配偶者に対しては法的な拘束力を持つため、万が一あなたが債務を肩代わりした場合、元配偶者に求償する際の重要な証拠となります。
また、公正証書に強制執行認諾文言を入れておけば、元配偶者が返済を怠った際に裁判を経ずに給与の差し押さえなどの強制執行が可能になります。心理的な抑止効果も期待できるため、公正証書の作成は必ず行っておくべきでしょう。
定期的に返済状況を確認させてもらう取り決めをする
連帯保証人を続ける場合、元配偶者の返済状況を定期的に確認できる仕組みを作ることが不可欠です。滞納が発生してから気づくのでは遅いため、予防的なモニタリングが重要になります。
具体的には、毎月の返済証明書や通帳のコピーを送付してもらう、半年に1回は金融機関から返済状況の報告書を取り寄せて共有する、といった取り決めを離婚協議書や公正証書に明記します。この約束を守らない場合のペナルティについても定めておくと効果的です。
また、元配偶者の連絡先や勤務先の変更があった場合は速やかに通知してもらう条項も入れておきましょう。転職や引っ越しによって連絡が取れなくなり、返済状況が把握できなくなるリスクを防ぐためです。
これらの対策は完璧ではありませんが、早期に問題を発見し、対応する時間的余裕を確保できます。連帯保証人である以上、受け身の姿勢ではなく、能動的にリスク管理を行う意識が必要です。
まとめ:離婚時の連帯保証人問題は先延ばしにせず、早めの行動を
離婚によって婚姻関係は解消されても、連帯保証契約は自動的には消滅しません。元配偶者の債務に対する法的責任は離婚後も継続し、滞納が発生すればあなたに一括請求が届くリスクがあります。
連帯保証人から外れるには、保証人の差し替え、ローンの借り換え、担保の提供、または対象資産の売却といった方法があります。いずれも金融機関の承諾が必要となるため、離婚協議の早い段階から準備を始めることが重要です。
どうしても外れられない場合でも、公正証書の作成や定期的な返済状況の確認といった対策で、リスクを最小限に抑えることができます。連帯保証人の問題は、放置すればするほど解決が難しくなります。
離婚後の新しい人生を安心してスタートさせるために、専門家に相談しながら計画的に対処していきましょう。弁護士や司法書士、ファイナンシャルプランナーなどの力を借りることで、より確実な解決策が見つかるはずです。

