相談者のプロフィール
岩瀬克彦さん(仮)、53歳、埼玉県久喜市在住。
設備管理会社に21年間勤務したのち、母親の介護を理由に退職。現在は無職。
妻の節子さん(仮・49歳)が調剤薬局でパート勤務(月約10万円)しており、現在の世帯収入はそれのみ。
長女(23歳・社会人・一人暮らし)、同居中の母・フミ子さん(仮・81歳・要介護3)との4人暮らし。
【物件・ローンの情報】
2003年に新築で購入した4LDKの一戸建て(築22年)。
住宅ローン残債は約1,400万円。月々の返済は78,000円。
物件の概算査定額は約1,150〜1,250万円。
ご相談の内容
克彦さんの母・フミ子さんは、もともと足腰が弱く、克彦さんが週末に様子を見に通う生活を数年続けていました。2022年秋、フミ子さんが自宅で転倒し大腿骨を骨折。入院・手術を経て退院したものの、一人での生活が難しくなり、克彦さんの自宅へ引き取ることになりました。要介護3の認定を受け、デイサービスと訪問介護を組み合わせながら、同居での介護生活が始まりました。
当初は仕事と介護を両立させるつもりでした。しかし克彦さんの仕事は設備の点検・管理が中心で、現場への出張や夜間の緊急対応が発生することも多く、介護が始まってからはデイサービスのない日や母の体調が悪い日に休まざるを得ない場面が増えていきました。上司からは遠回しに負担を指摘されることもあり、克彦さん自身も「このまま職場に迷惑をかけ続けるのは限界だ」と感じるようになりました。妻の節子さんもパート勤務の傍ら家事と介護補助を担っており、心身の疲弊が日に日に目に見えて増していました。
夫婦で話し合いを重ねた末、2023年春に「克彦が仕事を辞めて介護に専念する」という結論を出しました。21年間勤めた会社を辞める決断は容易ではありませんでしたが、「母を施設には入れたくない」という思いが克彦さんの中で最も強くありました。
退職後は雇用保険の給付を受けながらなんとか住宅ローンを維持していましたが、給付が終了した2024年初頭から、家計は節子さんのパート収入のみになりました。月々の住宅ローン返済78,000円に加え、介護用品・医療費・デイサービスの自己負担分が月2〜3万円かかり、生活費すら賄えない状況が続きました。貯金を取り崩しながら返済を続けましたが、2024年秋には残高が30万円を下回り、住宅ローンを初めて滞納しました。
介護の合間を縫って再就職活動も試みましたが、53歳という年齢と「いつ休むかわからない」という状況が重なり、採用に至らない日が続きました。ハローワークでも「まず介護の体制を整えてから」と言われ、どこにも出口が見えない感覚が続きました。
克彦さんは「介護退職は自分で決めたことだから、その責任は自分が取るしかない」という意識が強く、誰かに助けを求めることへの抵抗感がありました。夜中に眠れず台所でお茶を飲みながら、スマートフォンで「介護退職 住宅ローン 払えない」「任意売却 高齢者 同居」などと検索することが増えましたが、自分の状況にぴったり当てはまる情報はなかなか見つかりませんでした。
節子さんがある夜「家を売るしかないのかな」と口にしたとき、克彦さんは「そうかもしれない」とだけ答えました。22年間住んだ家の話がそれだけの短いやり取りで終わったのは、克彦さん自身が言うように「あのときはもう疲れていた」からでした。2025年1月、銀行から2回目の督促通知が届いたタイミングで、節子さんに「一度だけ話を聞いてもらうだけでもいい」と背中を押され、無料相談窓口に連絡しました。
ご提案・解決までの流れ
初回の相談では、克彦さんが抱える状況を丁寧に整理することから始めました。住宅ローンの滞納、介護に伴う毎月の支出、再就職の見通しが立っていない現状を整理したうえで、現時点で取り得る選択肢を順を追って説明しました。
克彦さんは「任意売却をすると、すぐに家を出なければならない」「残った債務を一生払い続けることになる」という不安を抱えていましたが、どちらも正確ではない部分があることをまず説明しました。任意売却では売却時期や引き渡し条件について債権者と交渉する余地があること、残債については収入状況に応じた分割返済の交渉が可能なケースがあることをお伝えし、「相談=即売却ではない」という点も最初に確認しました。
今回のケースで特に配慮が必要だったのは、要介護3の母・フミ子さんが同居しているという点です。転居が母の体調や生活環境に与える影響を最小限にするため、引き渡しまでの居住期間を可能な限り確保できるよう、銀行との交渉を進めました。また転居先については、フミ子さんが利用しているデイサービスや訪問介護の事業者をそのまま継続利用できる範囲内(久喜市内)で賃貸物件を探すことを条件に絞り込みました。
物件の売却活動では、近隣への影響を最小限にしながら進め、内覧の日時は訪問介護が入っていない時間帯に限定しました。売却成立後、残債については克彦さんの現在の収入状況を銀行に説明したうえで、無理のない分割返済計画を設定しました。長女への状況説明についても、克彦さんご夫婦が話すタイミングを相談しながら、必要な情報整理をサポートしました。
相談者の声

相談する前は、任意売却というのは競売と同じようなもので、強制的に家を出されるイメージがありました。残債も死ぬまで追いかけられるんじゃないかという漠然とした怖さがあって、なかなか電話できなかったです。
実際に話を聞いてもらったら、自分が思っていたこととだいぶ違っていました。引き渡しの時期を相談できること、残債の返済も収入に合わせて交渉できること、知らないまま一人で悩んでいたのがもったいなかったと思います。
母のことが一番心配でしたが、今の介護サービスをそのまま使える場所に引っ越せたので、母の生活リズムはほとんど変わっていません。家を売ることへの罪悪感はありましたが、このまま滞納を続けていたら競売になっていたかもしれないことを考えると、早めに動いてよかったと思っています。節子にも、もっと早く相談していれば一緒に悩む時間が減ったのにと言われました。
担当者のコメント

克彦さんは初回から「自分で決めたことだから」という言葉を何度も口にされていました。介護退職という選択に対して、ご自身を責める気持ちが強かったのだと思います。ただ、状況を整理していくなかで、住宅ローンの問題は責任感だけでは解決できない段階に来ていることをご理解いただき、一緒に現実的な方向を考えることができました。
このケースで難しかったのは、要介護の方が同居しているなかでの転居調整です。転居が介護の継続性に影響しないよう、引き渡し時期の調整と転居先の条件設定を同時に進めました。介護サービスの担当ケアマネジャーとの情報共有も、スムーズな転居に向けて重要なポイントでした。
介護を理由に退職せざるを得なかった方が住宅ローンに行き詰まるケースは、今後さらに増えていくと感じています。「自分で決めたことだから」と抱え込まず、状況が複雑なほど早めにご相談ください。相談するだけであれば、まだ選択肢は残っています。
