相談者様のプロフィール
森田美智子さん(仮)、58歳、埼玉県川口市在住。
地元信用金庫の融資課主任、年収480万円、勤続32年。夫の健二さん(60歳・製造業工場長)、長女の愛美さん(30歳・既婚・横浜市在住)、次女の由香さん(28歳・独身・都内で看護師)との4人家族。
3年前に母親を亡くし、千葉県市川市の築40年木造2階建て実家を相続。土地50坪、建物延床面積28坪の物件で、年間固定資産税18万円が継続して発生している。
ご相談の内容
母親の四十九日が終わった頃、美智子さん一家は「思い出の詰まった実家をすぐに手放すのは忍びない」と話し合い、とりあえず維持することを決めました。当初は「いずれ娘のどちらかが住むかもしれない」という期待もありましたが、2年前に現実を受け入れ、1,300万円で売り出しを開始しました。
しかし3ヶ月経っても内覧希望者すら現れず、価格を1,150万円、さらに980万円まで下げても成約に至りませんでした。不動産会社からは「更地にすれば売れやすいが解体費用200万円がかかる」と提案されましたが、「母の家を壊すなんて」と感情的に反対してしまいました。
月1回の実家の換気や掃除、年間54万円の固定資産税負担が続く中、美智子さんは夜中に「このまま売れなかったらどうしよう」と考えて眠れない日が増えていました。半年前には次女から「最近顔色悪いよ」と心配され、3ヶ月前の台風では雨樋修繕に8万円かかり、空き家でもお金がかかり続ける現実を痛感。年末に「3年間で54万円も税金を払っている」計算をして愕然としました。
夫から「退職金の運用計画を立てたいから、今年中に片付けよう」と言われ、「これ以上家族を巻き込むわけにはいかない」と専門家への相談を決意しました。
相談所からのご提案・解決までの流れ
まず美智子さんの心境を丁寧にお聞きし、母親への思いと現実的な負担の両方を理解した上で、段階的なアプローチを提案しました。
最初に市場調査を実施し、築40年物件でも古民家風リノベーション需要があることを確認。価格設定を見直し、「古き良き日本家屋」としての価値をアピールする売却戦略を立てました。同時に、相続不動産の3年以内売却特例について正しい情報をお伝えし、まだ適用期間内であることを説明しました。
母親の形見である和箪笥については売却前に引き取り、庭の柿の木を大切にしてくれる買い手を優先的に探すことを約束しました。6ヶ月間の販売活動の結果、築古物件のリノベーションを得意とする工務店経由で、若い夫婦が「庭付きの家で子育てをしたい」として購入を決定。最終的に880万円での成約となりました。
売却後は相続不動産の譲渡所得特別控除を活用し、税負担も最小限に抑えることができました。
相談者の声

銀行で不動産担保を扱っているのに、自分のことになると感情が邪魔して冷静になれませんでした。母への申し訳なさと現実的な負担の狭間で、本当に苦しい3年間でした。
相談では私の気持ちを否定することなく、母の思い出を大切にしながらも現実的な解決策を示してもらえました。和箪笥を引き取れたことや、庭の柿の木を愛してくれる家族が住むことになったと聞いて、母も喜んでいると思います。
固定資産税の負担がなくなり、夜眠れない日々からも解放されました。夫の退職金運用の計画も立てられるようになり、家族関係も以前の穏やかさを取り戻せました。もっと早く相談していればと思いますが、結果的に母の家を大切にしてくれる方に託せて良かったです。
担当者のコメント

親から相続した不動産は、単なる資産以上の感情的な価値を持っています。美智子さんのように、現実的な判断と故人への思いの間で悩まれる方は少なくありません。
今回は美智子さんの心境に寄り添いながら、市場の実情を正しく把握し、「思い出を大切にしつつ現実的な解決を図る」アプローチが功を奏しました。古民家需要の掘り起こしや、相続税制の正確な理解も重要でした。
空き家問題は時間が経つほど解決が困難になります。感情的な迷いがある場合こそ、第三者の客観的な視点を活用されることをお勧めします。故人への思いを大切にしながらも、現実的な最善策を見つけることは可能です。