相談者様のプロフィール
菊池亮介さん(仮)、51歳、男性、東京都八王子市在住。
2002年に精密機器メーカーへ入社し、生産管理部門の係長として23年間勤務しました。退職前の年収は約680万円です。2025年6月、主力工場の再編に伴う希望退職の募集に応じて退職し、退職金は約1,400万円でした。その後およそ半年の求職活動を経て、2026年1月から中小の機械部品商社に生産管理担当として再就職しましたが、年収は約430万円、賞与はありません。
家族は、妻の和子さん(49歳・衣料品店のパート、年収約120万円)、長男の拓海さん(20歳・私立大学2年生、自宅から通学)、母の芳江さん(78歳・要支援1、年金は月約7万円)の4人暮らしです。芳江さんとは2015年から同居しています。
物件は2015年6月に新築で購入した4LDKの一戸建て(購入価格4,480万円、東京都八王子市)。住宅金融支援機構のフラット35を利用し、借入額4,200万円、返済期間35年、全期間固定金利1.56%、元利均等返済で、当初の月返済額は約13万円です。
退職時(2025年6月)の住宅ローン残債は約3,220万円、ご相談時(2026年2月)は滞納分を含めて約3,200万円でした。
ご相談の内容
菊池さんは40歳のとき、八王子市内に4LDKの一戸建てを購入し、母の芳江さんを呼び寄せて同居を始めました。ローンは全期間固定のフラット35で組み、月13万円の返済も安定した収入で無理なく続けていました。定年まで住み続けるつもりでした。
転機は2025年春でした。生産の一部を海外と地方拠点へ移す再編が決まり、間接部門を対象に希望退職の募集が行われました。菊池さんの部署では退職を前提とした面談が繰り返され、6月末に退職を決めました。退職金は約1,400万円。次の仕事が決まるまでは持ちこたえられると考えていました。
しかし50代で管理職経験者の再就職は想定より厳しく、生産管理の職種でも提示される年収は前職を大きく下回りました。会社都合の退職だったため失業給付は待期期間のみで受給できましたが、それでも月25万円ほどで、退職金を取り崩す生活が続きました。私立大学に通う拓海さんの学費、芳江さんの通院や介護用品の費用も重なりました。求職活動は半年に及び、ようやく決まった再就職先の年収は約430万円で賞与なし。手取りは月25万円前後で、住宅ローン13万円を払うと家族4人の生活が回らないことがはっきりしました。
退職金を取り崩して2025年10月分までは返済しましたが、11月分から返済ができなくなりました。2026年1月に住宅金融支援機構から督促状が届き、このままでは期限の利益を失い一括請求に移ると記されていました。菊池さんは、退職金があるうちは何とかなると思い込んでいた、23年働いた会社から退職を促され、その上で家まで失うのかという気持ちだったと話します。和子さんには言い出せず、一人で家計表を見返す夜が続きました。通帳を見た和子さんから、退職金には手をつけず身の丈に合う住まいに移ろうと言われ、相談を決めました。
インターネットでは、任意売却は競売と同じで強制的に退去させられる、退職金や再就職先の給与を差し押さえられる、といった情報を目にし、不安を抱えたままのご相談でした。
相談所からのご提案・解決までの流れ
ご相談は2026年2月上旬、滞納が3か月に達した時点でした。まず家計と債務の全体を整理しました。住宅ローン残債は約3,200万円。一方、自宅の査定額は不動産会社3社で2,700万〜2,950万円、実際に売り出す場合の想定売却価格は2,850万円でした。売却しても残債に約350万円届かないオーバーローンで、抵当権を外せないため、債権者の同意を得て売却する任意売却をご提案しました。
あわせて次の点を説明しました。フラット35は保証会社を介さず住宅金融支援機構が直接の債権者で、6か月以上の滞納が続くと期限の利益を失い、機構が一括弁済を求めたうえで委託先の債権回収会社が窓口になること。任意売却はその前後どちらでも進められ、売却後に残る債務は一括ではなく、収入に応じた分割弁済を協議できること。退職金や給与が直ちに差し押さえられるわけではないこと。競売と違い、退去の時期や引渡しの条件を自分たちで決められることもお伝えしました。
ご家族の希望は、要支援の芳江さんが暮らしやすい環境を保つことでした。そこで、通院先の病院に近く、エレベーターのある賃貸を条件に住み替え先を探しながら、並行して売却活動を進めました。2026年3月から販売を開始し、5月に住み替えを検討していた近隣のご家族と2,850万円で売買契約に至りました。この時期に滞納が6か月を超え、機構が期限の利益喪失を通知したため、以後の交渉は機構から委託を受けた債権回収会社と行いました。
2026年7月に決済と引渡しを完了しました。売却代金2,850万円から仲介手数料などの諸費用と、引越し費用として配分された20万円を差し引き、残りを債権者へ充当しました。売却後に残った債務は約480万円で、月2万円の分割弁済で合意しました。退職金には手をつけずに済み、芳江さんの介護と拓海さんの学費に備える資金として残せました。転居先は日野市内の3LDKの賃貸マンションで、家賃は月10万8千円です。
相談者の声

退職金がまだ残っていたので、相談に行くまでは、どこかで何とかなると思っていました。再就職先の給与額が決まったとき、初めてこの家には住み続けられないと分かりました。認めるまでに時間がかかりました。
任意売却は競売と同じで、無理やり追い出されるものだと思っていました。退職金や新しい職場の給料も取り上げられると覚悟していました。担当の方に、それは違うと順を追って説明してもらい、引渡しの時期も自分たちで決められると聞いて、ようやく落ち着いて考えられるようになりました。
一番よかったのは、退職金を残せたことです。母の通院や介護にこれから何が必要になるか分からないので、その備えを崩さずに済んだのは大きいです。母は自分のせいだと気にしていましたが、家賃の安い部屋に移って固定資産税や修繕の心配がなくなり、かえって気持ちが楽になったようです。
息子は学費の一部を奨学金に切り替え、アルバイトも増やしてくれました。家族に負担をかけてしまいましたが、今は毎月の支払いがはっきりしていて、通帳を見て眠れなくなることはなくなりました。
担当者のコメント

菊池さんのように、希望退職や解雇で職を離れ、再就職はできても収入が下がって住宅ローンが重くなるというご相談は、近年増えています。退職金がある間は問題が見えにくく、再就職先の条件が決まって初めて返済の見通しが立たないと気づく方が少なくありません。
今回のローンは全期間固定のフラット35で、金利上昇の影響は受けていません。原因は収入の減少にはっきりしており、家計をどの水準に合わせるかという判断がしやすい状況でした。査定額と残債の差、諸費用を引いた後に残る債務の額を具体的な金額でお示ししたことで、ご家族が納得して方針を決められました。
もう一つの軸は、退職金を守ることでした。返済の続かないローンに退職金を注ぎ込むより、住まいを身の丈に合わせ、退職金は介護や教育の備えとして残す。この整理ができたことが、生活の立て直しにつながりました。お母様の通院に配慮した住み替え先選びも、ご家族が前を向くうえで欠かせない条件でした。
住宅ローンの滞納は、放置すると期限の利益の喪失、一括請求、競売へと進み、選べる手段が減っていきます。退職金が残っている段階でも、収入が大きく下がったと感じたら、早めにご相談いただくことをお勧めします。
