コロナ禍でホテル勤務の収入激減。認知症の母との共有名義マンションの住宅ローンが払えない

  • 任意売却

相談者の情報
井上慎也さん(仮)、43歳、神奈川県横浜市港北区在住。
シティホテルのフロント主任として18年勤務。コロナ禍の影響で年収が480万円から320万円に減少。
独身で、軽度認知症の母・美代子さん(74歳・元小学校教師)と2人暮らし。

物件・ローンの情報
2018年購入の中古マンション(2LDK・築22年)、購入価格3,500万円。
母が頭金500万円を拠出し、慎也さん60%、母40%の共有名義。
住宅ローン残債2,900万円、月々返済額約8万5千円。
2023年初頭から滞納開始。

ご相談の内容

慎也さんは18年間同じシティホテルでフロント主任として安定した収入を得ていました。2018年に父が亡くなった後、軽度の認知症の症状が見え始めた母・美代子さんと一緒に住むため、現在のマンションを購入しました。母は元小学校教師で退職金もあったため、頭金500万円を出してくれました。

2019年末頃から、ホテルの宿泊客減少が始まり、2020年4月の緊急事態宣言以降は状況が深刻化しました。ホテルの稼働率は20%以下に落ち込み、慎也さんの月給も32万円から22万円まで減少しました。コロナ禍のストレスも影響してか、2021年頃から母の認知症の症状が進行し、デイサービスも利用制限がある中で、慎也さんが在宅で母の世話をする時間が増えました。

2022年春、ついに住宅ローンの返済が困難になりました。最初は貯金を切り崩して対応していましたが、2023年初頭から滞納が始まりました。慎也さんは「母に心配をかけたくない」という思いから、銀行からの督促についても母には一切話さず、一人で問題を抱え込んでしまいました。

慎也さんにとって母は唯一の家族であり、「父が亡くなってから、母を守るのは自分だけ」という強い責任感がありました。母が頭金を出してくれたマンションを失うことは「母への恩を仇で返すようなもの」と感じ、深い罪悪感に苦しんでいました。夜中に母の様子を見に行った時、「この人を路頭に迷わせるわけにはいかない」という思いで涙があふれることもありました。

2024年夏、母から「慎也、最近元気がないけど大丈夫?」と心配された時、「このままでは母にもっと迷惑をかけてしまう」と決意し、ようやく任意売却の相談に踏み切りました。

相談所からのご提案・解決までの流れ

ご相談では、慎也さんの「母に迷惑をかけたくない」という強い気持ちを最優先に考慮しました。当初、慎也さんは「住宅ローンは必ず全額返済するもの」という固定観念があり、オーバーローンでの売却には強い抵抗を示されていました。

まず任意売却の仕組みと、競売との違いについて詳しくご説明しました。特に、任意売却では契約不適合責任が免責されることや、競売よりも高い価格で売却できる可能性が高いことをお伝えしました。また、お母様の認知症が進行している状況を考慮すると、競売による強制的な退去よりも、計画的な転居の方が精神的負担が少ないことを説明しました。

債権者との交渉では、慎也さんの現在の収入状況と今後の見通し、お母様の介護という事情を丁寧に説明し、理解を求めました。幸い横浜市港北区は人気エリアで、債権者の担保評価も高く、任意売却に協力的な姿勢を示していただけました。

売却活動では、築22年でも管理の行き届いたマンションであることや、駅からのアクセスの良さをアピールし、4ヶ月で買主が決定しました。売却代金は2,500万円となり、諸費用を差し引いて住宅ローン残債400万円が残りましたが、債権者との交渉により月1万円の分割返済で合意することができました。転居先についても、お母様の通院に便利で、介護サービスを利用しやすい賃貸マンションを一緒に探し、スムーズな転居をサポートしました。

相談者の声

長い間、住宅ローンは全額返済しなければならないと思い込んでいました。オーバーローンでの売却なんて考えられませんでしたし、母に迷惑をかけるくらいなら自分が何とかしなければと一人で抱え込んでいました。

でも担当者の方に任意売却の仕組みを詳しく教えていただき、競売になった場合の母への影響を考えると、早期の売却が最善の選択だと理解できました。契約不適合責任の免責についても、買主にとってのリスクを具体的に説明していただき、相場での売却がいかに難しいかも納得できました。

残債400万円を月1万円で返済できることになり、今の収入でも十分対応可能です。母も新しい住まいに慣れて、デイサービスも近くで見つかりました。何より、競売で強制的に追い出されることなく、計画的に引っ越しできたことで、母の精神的負担も最小限で済みました。一人で悩まず、もっと早く相談すればよかったと思っています。

担当者のコメント

慎也さんのケースは、コロナ禍による収入減少と高齢の親御さんの介護という、現代社会の課題が複合的に現れた事例でした。特に、お母様への深い愛情と責任感が、かえって問題解決を遅らせていた点が印象的でした。

重要だったのは、慎也さんの価値観を否定するのではなく、現実的な選択肢を提示することでした。全額返済という理想と、お母様の福祉という現実的な優先順位を整理していただくことで、最適な解決策を見つけることができました。

コロナ禍で収入が減少された方は多くいらっしゃいます。特にサービス業の方は深刻な影響を受けており、住宅ローンの返済に困る方も少なくありません。一人で抱え込まず、早めにご相談いただければ、より多くの選択肢を検討できます。家族を守りたいという気持ちこそ、専門家に相談する勇気の源泉にしていただければと思います。

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