任意売却と通常売却(一般的な不動産売却)の違いとは?目的の違い、費用、手続きの流れを徹底比較
2025.07.16
住宅ローンの返済が困難になり、自宅の売却を考えている方の中には「任意売却」という言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。一方で、「通常の売却と任意売却はどう違うの?」「自分の場合はどちらが当てはまるのか?」といった疑問を抱えている方も少なくありません。
任意売却と通常売却は、同じ不動産売却でも手続きの流れや結果が大きく異なります。この記事では、両者の違いを詳細に比較し、あなたの状況に最適な選択ができるよう、具体的な事例を交えながら解説していきます。
【比較表】ひと目でわかる!任意売却と通常売却の7つの違い
まず結論として、任意売却と通常売却の主要な違いを一覧表で確認しましょう。
項目 | 任意売却 | 通常売却(仲介) |
---|---|---|
売却の主導権 | 債権者の同意が必要 | 売主が自由に決定 |
売却価格 | 市場価格の70~90% | 市場価格に近い価格 |
手元に残るお金 | 引越し費用程度 | 売却代金から諸費用を差し引いた額 |
売却期間 | 3~6ヶ月程度 | 3~12ヶ月程度 |
残債の取り扱い | 分割返済の交渉可能 | 一括返済が原則 |
プライバシー | 一般的な売却として扱われる | 一般的な売却として扱われる |
信用情報への影響 | ブラックリスト登録 | 影響なし |
この表を見ると、任意売却は債権者の同意を得ながら進める特殊な売却方法であり、通常売却とは根本的に異なる仕組みであることがわかります。以下で、それぞれの詳細を解説していきます。
そもそも任意売却とは?通常の不動産売却・競売との関係性

不動産売却には大きく分けて3つの方法があります。それぞれの特徴と関係性を理解することで、あなたの状況に最適な選択肢が見えてきます。
任意売却:住宅ローン返済が困難な場合の売却方法
任意売却とは、住宅ローンの返済が困難になった際に、債権者(金融機関)の同意を得て不動産を売却する方法です。売却代金でローンを完済できない場合でも、残債の返済条件を債権者と交渉しながら進められます。
たとえば、3,000万円のローン残債がある物件を2,500万円で売却した場合、残りの500万円について月々3万円の分割返済といった条件を交渉することが可能です。競売を避けながら、現実的な返済計画を立てられる点が大きな特徴といえるでしょう。
通常売却(仲介):一般的な不動産売却の方法
通常売却は、不動産会社に仲介を依頼して市場で買主を探す一般的な売却方法です。売主が主導権を握り、売却価格や売却時期を自由に決められます。
住宅ローンが残っている場合でも、売却代金で完済できる見込みがあれば通常売却を選択できます。市場価格での売却が期待できるため、売却後に手元に残る資金も多くなる傾向があります。
競売:最終手段として裁判所が行う強制的な売却
競売は、住宅ローンの滞納が続いた場合に裁判所が強制的に不動産を売却する手続きです。売却価格は市場価格の50~70%程度と低く、売主の意思に関係なく進められます。
競売が開始されると、物件情報がインターネットで公開されるため、プライバシーの面でも大きな問題となります。任意売却は、この競売を避けるための選択肢として位置づけられています。
任意売却と通常売却、何が違う?7つのポイントを徹底解説

ここからは、冒頭の比較表で示した7つの違いについて、具体例を交えながら詳しく解説していきます。
違い①:売却の主導権(誰が中心に進めるか)
通常売却では売主が全ての決定権を持ちますが、任意売却では債権者の同意が必要不可欠です。
通常売却の場合、売主は「この価格なら売りたい」「もう少し待ってみよう」といった判断を自由に行えます。不動産会社は売主の意向に沿って販売活動を進めるため、売主のペースで進行できるのが特徴です。
一方、任意売却では債権者である金融機関が重要な決定権を持ちます。売却価格の下限や売却期限について債権者の同意を得る必要があり、時には債権者から「この価格以下では売却を認めない」といった条件を提示される場合もあります。
違い②:売却価格の決まり方と相場
売却価格の決定プロセスも両者で大きく異なります。
通常売却では、不動産会社の査定をもとに売主が希望価格を設定し、市場の反応を見ながら価格調整を行います。時間をかけて適正価格を見つけることができるため、市場価格に近い価格での売却が期待できます。
任意売却では、債権者が承認する価格範囲内で売却する必要があります。競売を避けるための手続きであるため、市場価格よりも若干低い価格での売却となることが多く、一般的には市場価格の70~90%程度が相場となっています。
違い③:手元に残せるお金と費用の内訳
売却後に手元に残る資金についても、両者で大きな差があります。
通常売却では、売却代金からローン残債と諸費用(仲介手数料、登記費用など)を差し引いた金額が手元に残ります。例えば、3,000万円で売却し、ローン残債が2,500万円、諸費用が200万円の場合、300万円が手元に残る計算です。
任意売却では、売却代金の大部分が債権者への返済に充てられるため、手元に残る資金は限られます。ただし、債権者との交渉により、引越し費用として30~100万円程度を売却代金から捻出できる場合があります。
違い④:売却までにかかる期間の目安
売却期間についても、それぞれ異なる特徴があります。
通常売却では、市場の状況や物件の条件により3ヶ月~12ヶ月程度の期間を要します。売主の都合で売却時期を調整できるため、より良い条件で売却するために時間をかけることも可能です。
任意売却では、一般的に競売の開始決定から約6ヶ月以内に売却を完了させる必要があります。この期間内に買主を見つけられなければ競売手続きが進行してしまうため、3~6ヶ月程度での売却が一般的です。時間的制約がある分、スピーディな対応が求められます。
違い⑤:売却後の残債(ローン)の取り扱い
売却後の残債処理は、両者で最も大きく異なる点の一つです。
通常売却では、売却代金でローンを完済するのが原則です。売却代金がローン残債を下回る場合、不足分を現金で補填する必要があります。金融機関は基本的に一括返済を求めるため、資金調達ができなければ売却自体が困難になります。
任意売却では、売却後に残った債務について、債権者と返済条件を交渉できます。残債500万円に対して月々3万円の分割返済といった現実的な返済計画を立てることが可能です。債権者にとっても競売よりも多くの回収が見込めるため、柔軟な対応を受けられる場合が多いといえます。
違い⑥:周囲へのプライバシー配慮
プライバシーの観点では、両者ともに一般的な売却として扱われます。
通常売却では、一般的な住み替えや投資目的での売却と同様に扱われるため、特にプライバシー上の問題は発生しません。近所の方々にも、通常の住み替えとして認識されるでしょう。
任意売却についても、外見上は通常の売却と変わらない方法で進められるため、経済的な事情を周囲に知られる心配は少ないといえます。ただし、売却後の引越し時期が限定されるため、周囲への説明が必要になる場合もあります。
違い⑦:売主の精神的・手続き的な負担
最後に、売主にかかる負担について比較してみましょう。
通常売却では、売主が主導権を握って進められるため、自分のペースで手続きを進められます。精神的な負担は比較的軽く、不動産会社のサポートを受けながら冷静に判断できる環境が整っています。
任意売却では、ローン滞納による債権者との交渉や、競売という最悪の事態を回避するためのプレッシャーが常に存在します。手続き的にも、債権者への説明や同意取得など、通常売却にはない複雑な工程があるため、専門家のサポートが不可欠となります。
【状況別】任意売却のメリット・デメリット

任意売却を検討する際は、メリットとデメリットを正確に理解し、自分の状況に適しているかを判断することが重要です。
任意売却の3つのメリット
市場価格に近い価格での売却が期待できる
任意売却の最大のメリットは、競売と比較して高い価格で売却できることです。競売では市場価格の50~70%程度になることが多いのに対し、任意売却では70~90%程度での売却が期待できます。
例えば、市場価格3,000万円の物件の場合、競売では1,500~2,100万円程度ですが、任意売却では2,100~2,700万円程度での売却が可能です。この価格差は、債権者への返済額や売主の経済的負担に大きな影響を与えます。
引越し費用などを売却代金から捻出できる場合がある
任意売却では、債権者との交渉により、売却代金から引越し費用や当面の生活費を捻出できる場合があります。通常30~100万円程度の範囲で、債権者の理解を得られれば認められることが多いです。
競売の場合は売却代金の全額が債権者に渡されるため、引越し費用すら手元に残らないケースが一般的です。任意売却であれば、新生活のスタートに必要な最低限の資金を確保できる可能性があります。
競売と違い、プライバシーが守られやすい
競売が開始されると、物件情報がインターネットの競売サイトで公開され、住所や間取り、写真まで掲載されます。また、裁判所の執行官が物件調査のために訪問するため、近隣住民にも競売であることが知られる可能性が高くなります。
任意売却では、一般的な不動産売却と同様の方法で進められるため、経済的な事情を周囲に知られるリスクを最小限に抑えられます。
任意売却の3つのデメリット
債権者(金融機関)全ての同意が必須
任意売却を進めるには、住宅ローンの債権者だけでなく、その他の抵当権者(第二抵当権者など)全ての同意が必要です。複数の債権者がいる場合、それぞれの利害関係を調整する必要があり、交渉が長期化する可能性があります。
一つの債権者でも同意が得られなければ任意売却は成立しないため、全ての関係者との調整が成功の鍵となります。この点が、任意売却の最大の難しさといえるでしょう。
信用情報への影響(ブラックリスト)は避けられない
任意売却を行う時点で、すでに住宅ローンの延滞が発生しているため、信用情報機関に事故情報が登録されます。いわゆる「ブラックリスト」に載った状態となり、今後5~10年程度は新たな借入が困難になります。
クレジットカードの新規作成や住宅ローンの借り換え、自動車ローンの利用などに影響が及ぶため、売却後の生活設計において十分な注意が必要です。
時間的な制約が厳しい
任意売却は、競売手続きが進行する中で行われるため、限られた時間内で買主を見つける必要があります。競売の開始決定から約6ヶ月以内に売却を完了させなければ、競売手続きが優先されてしまいます。
通常売却のように「良い条件が整うまで待つ」という選択肢がないため、時には希望価格を下げてでも早期の売却を決断する必要があります。
あなたはどっち?任意売却と通常売却の選び方フローチャート
以下のチェックリストで、あなたの状況を確認してみましょう。
このフローチャートはあくまで目安です。実際の判断には、専門家による詳細な状況分析が必要となります。特に、任意売却が可能な期間は限られているため、早めの相談が重要です。
任意売却の手続きと流れ【7ステップで解説】
任意売却を進める際の具体的な手続きを、時系列に沿って解説します。
ステップ1:不動産会社へ相談・査定
まず、任意売却の実績がある不動産会社に相談し、物件の査定を受けます。この段階で、売却予想価格と現在のローン残高を比較し、任意売却の可能性を判断します。
査定時には、住宅ローンの残高証明書や返済予定表、滞納状況がわかる書類を準備しておくとスムーズです。複数の不動産会社に査定を依頼し、任意売却の経験と実績を重視して選定することが重要です。
ステップ2:債権者(金融機関)との交渉開始
不動産会社と連携し、住宅ローンの債権者に任意売却の意向を伝えます。この時点で、売却予想価格と返済計画の概要を提示し、債権者の基本的な了解を得ます。
債権者によっては、任意売却に応じるための条件(売却価格の下限、売却期限など)を提示される場合があります。これらの条件を確認し、実現可能性を慎重に検討する必要があります。
ステップ3:専任媒介契約の締結
債権者の基本的な了解が得られたら、不動産会社と専任媒介契約を締結します。任意売却では、債権者との密接な連携が必要なため、複数の不動産会社に依頼するのではなく、1社に絞って進めるのが一般的です。
この段階で、販売価格の設定や販売活動の方針について、債権者・不動産会社・売主の三者で合意形成を図ります。
ステップ4:販売活動の開始
通常の不動産売却と同様に、インターネット広告や新聞広告、チラシなどを活用して買主を募集します。ただし、任意売却では時間的制約があるため、より積極的な販売活動が必要です。
内覧希望者への対応や価格交渉も、債権者の了解を得ながら進めます。売却価格が債権者の承認範囲を下回る場合は、追加交渉が必要になることもあります。
ステップ5:購入希望者との交渉・売買契約
購入希望者が現れたら、売買条件の詳細を交渉します。価格だけでなく、引き渡し時期や付帯条件についても、債権者の承認を得ながら決定していきます。
売買契約の締結前には、最終的な売却価格と諸条件について、債権者の正式な承認を得る必要があります。この承認が得られない場合、契約を見直す必要が生じることもあります。
ステップ6:債権者の最終同意・抵当権抹消手続き
売買契約が成立したら、債権者から抵当権抹消への最終同意を得ます。同時に、売却後の残債処理について、具体的な返済計画を確定させます。
抵当権抹消に必要な書類の準備や、司法書士への依頼なども、この段階で進めます。決済日までに全ての手続きを完了させる必要があるため、スケジュール管理が重要です。
ステップ7:決済・引き渡し
最終的に、買主からの代金支払いと物件の引き渡しを行います。売却代金は、債権者への返済、諸費用の支払い、引越し費用などの順番で配分されます。
決済完了後、抵当権抹消登記を行い、物件の所有権を買主に移転します。この時点で任意売却の手続きは完了し、新生活のスタートとなります。
任意売却に関するよくある質問(Q&A)

Q1. 任意売却をすれば、残ったローンは払わなくていい?
任意売却後も、売却代金で返済できなかった残債については返済義務が続きます。ただし、債権者との交渉により、現実的な返済計画を立てることが可能です。
例えば、残債500万円に対して月々3万円の分割返済といった条件で合意できれば、無理のない範囲で返済を続けられます。債権者にとっても、競売よりも多くの回収が見込めるため、柔軟な対応を受けられることが多いです。
完全に返済義務がなくなるわけではありませんが、競売と比較して現実的な解決策を見つけられる可能性が高くなります。
Q2. 費用はどのくらいかかりますか?手持ち金がなくても大丈夫?
任意売却にかかる費用は、主に以下の通りです。
- 不動産仲介手数料:売却価格の3%+6万円
- 司法書士費用:10~20万円程度
- その他諸費用:5~10万円程度
これらの費用は、基本的に売却代金から差し引かれるため、手持ち資金がなくても手続きを進められます。債権者との交渉により、売却代金から諸費用を控除することについて事前に了解を得ておくことが重要です。
ただし、費用の配分についても債権者の承認が必要なため、事前に詳細な見積もりを提示し、合意を得ておくことが大切です。
Q3. 家族やご近所に知られずに売却することは可能ですか?
任意売却は、外見上は通常の不動産売却と変わらない方法で進められるため、経済的な事情を周囲に知られるリスクは比較的低いといえます。
ただし、以下の点にご注意ください。
売却活動中は、内覧希望者の訪問や不動産会社の看板設置などがあるため、売却していることは周囲に知られる可能性があります。これは通常売却でも同様です。
引越し時期が限定されるため、急な転居について周囲への説明が必要になる場合があります。「転勤」や「住み替え」といった理由で説明されることが多いです。
家族については、任意売却は家族全体の今後の生活に大きな影響を与えるため、可能な限り事前に相談し、理解と協力を得ることが重要です。
Q4. 任意売却を依頼する不動産会社はどこでも同じですか?
任意売却は通常の不動産売却とは異なる専門知識と経験が必要なため、不動産会社選びは非常に重要です。
任意売却の実績と経験 債権者との交渉経験が豊富で、任意売却の成功事例を多く持つ不動産会社を選ぶことが重要です。一般的な売買仲介しか経験がない会社では、適切な対応が困難な場合があります。
債権者との関係性 金融機関との信頼関係が構築されている不動産会社は、交渉をスムーズに進められる傾向があります。過去の取引実績を確認し、債権者からの信頼を得ている会社を選びましょう。
法的知識とサポート体制 任意売却では、法的な手続きも含まれるため、司法書士や弁護士との連携体制が整っている不動産会社が安心です。
複数の不動産会社に相談し、対応力や提案内容を比較検討することをお勧めします。
まとめ:一人で悩まず、まずは専門家へ相談を
任意売却と通常売却の違いについて、詳しく解説してきました。両者は同じ不動産売却でも、手続きの流れや結果が大きく異なることがおわかりいただけたでしょう。
任意売却は、住宅ローンの返済が困難な状況で競売を避けるための有効な手段ですが、時間的制約や複雑な手続きを伴います。一方、通常売却は売主の自由度が高く、市場価格での売却が期待できますが、ローンの完済が前提となります。
どちらの方法が適しているかは、あなたの現在の経済状況や将来の計画によって決まります。重要なのは、早めに専門家に相談し、最適な解決策を見つけることです。
住宅ローンの返済に不安を感じている方、売却を検討している方は、一人で悩まず、まずは不動産や法律の専門家にご相談ください。適切なアドバイスを受けることで、より良い解決策が見つかるはずです。
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