相談者様のプロフィール
長谷川直樹さん(仮)/48歳・男性/千葉県市川市在住。
食品メーカーの営業所に勤務。年収は約580万円、勤続19年。
家族は妻の恵子さん(46歳・パート勤務、年収約110万円)、長女(17歳・高校2年生)、長男(14歳・中学2年生)の4人暮らしです。
住まいは、父親が2013年4月に建て替えた木造2階建ての二世帯住宅(土地約28坪、千葉県市川市)。建て替え時に、父親が主債務者、直樹さんが後継債務者となる親子リレーローンを組みました。借入額は3,600万円、金利は変動0.775%、返済期間35年、当初の月返済額は約9.8万円です。
父親は2023年2月に病気で他界(享年75)。母親はそれ以前に亡くなっており、相続人は直樹さんと妹の由美さん(45歳・神奈川県川崎市在住・会社員)の2人です。自宅は法定相続分どおり、2分の1ずつの共有名義になっています。
相談時点(2025年10月)の住宅ローン残債は約2,470万円(滞納分・遅延損害金を含む)。父親が亡くなった2023年2月時点の残債は約2,680万円でした。
ご相談の内容
直樹さんの父親は2013年、老朽化した自宅を二世帯住宅に建て替えました。1階に直樹さん一家、2階に父親が住み、建築費は親子リレーローン3,600万円でまかないました。現役時代の父親の収入と直樹さんの補助で、返済は順調に進んでいました。
2022年に父親のがんが判明し、2023年2月に他界。相続人は直樹さんと川崎市に住む妹の由美さんの2人になりました。自宅は2分の1ずつの共有となり、住宅ローン(当時の残債は約2,680万円)は直樹さんが単独で返し続けることになりました。
遺産分割の話し合いで、由美さんは「家には直樹が住んでいるのだから直樹が引き継げばいい。ただし相続分は現金でほしい」と主張しました。直樹さんにその資金はなく、自宅を売っても残債に届かないと伝えると、由美さんは「借金まで半分背負うのか」と態度を硬くし、協議は2年以上止まりました。連絡は減り、兄妹の間に距離ができました。
2025年、直樹さんは変形性股関節症で人工関節の手術を受け、3か月休職しました。傷病手当金で収入は減り、固定資産税や戸建ての修繕費もかさんで貯蓄が目減りしました。2025年8月分からローンを払えなくなり、10月には「このままでは期限の利益を失い、保証会社が代位弁済する」という督促状が届きました。
直樹さんは、父の家を手放す後ろめたさ、妹との関係が悪化した疲れ、妻に負担をかけている申し訳なさで頭がいっぱいになっていました。妻の恵子さんに「一人で抱えないで」と背中を押され、相談を決めました。インターネットでは「共有名義は一人では売れない」「任意売却は信用情報に傷がつく」といった情報が目につき迷いましたが、兄妹の縁まで壊したくないという思いが勝りました。
相談所からのご提案・解決までの流れ
まず現状を数字で整理しました。相談時のローン残債は約2,470万円。一方、自宅の査定額は1,850万〜2,030万円で、想定売却価格は2,000万円でした。二世帯住宅は購入できる層が限られ、市場評価は低くなります。売却しても残債に届かないオーバーローンで、由美さんへ現金を渡す余地もないことが明確になりました。
次に、遺産分割協議のサポートに入りました。由美さんへ、分けられるだけの資産価値がないこと、父の死から2年以上が過ぎて今から相続放棄はできないこと、住宅ローンも法定相続分どおり兄妹それぞれに及んでいることを書面で説明しました。そのうえで、金融機関と交渉し、免責的債務引受によって債務を直樹さんに一本化し、由美さんを債務から外す方針を示しました。
2025年12月に期限の利益喪失の予告があり、2026年1月に保証会社が代位弁済を実行しました。以後の窓口は、保証会社から委託を受けたサービサー(債権回収会社)に移りました。サービサーへ任意売却を申し入れ、売却の基準価格と、売却後に残る債務の返済計画について協議を重ねました。
2026年2月、遺産分割協議が成立しました。自宅と住宅ローンは直樹さんが取得・引受、由美さんは持分を直樹さんへ移し、代償金も債務もなしという内容です。これが兄妹の関係を立て直すきっかけにもなりました。
販売活動は2026年2月から4月まで行い、単世帯として広く使いたいという購入希望者が2,000万円で見つかりました。2026年6月に決済し、売却代金は諸費用を差し引いて残債に充当。残る約570万円は、直樹さんが無理のない範囲で月2万円ずつ返済していくことでサービサーと合意しました。直樹さん一家は市川市内の賃貸へ移り、家賃は約10.5万円ですが、固定資産税や修繕費の負担がなくなり、家計は落ち着きました。
相談者の声

共有名義だから自分一人ではどうにもできないと思い込み、2年以上、何も進められませんでした。任意売却も特別な人がやる手続きで時間がかかるものだと誤解していましたが、実際は一つずつ順番に進み、思っていたより早く終わりました。
一番よかったのは、妹を借金から外す形にできたことです。おかげで気まずさが薄れ、父の法事でも普通に話せるようになりました。父の家を手放すのはつらかったですが、あのまま持ち続けていたら、兄妹の関係も家計も悪くなる一方だったと思います。
担当の方が妹にも直接会って説明してくれたのも助かりました。自分では言いにくいことを、間に入って冷静に伝えてもらえました。今は督促の電話に怯えることもなく、子どもの進学の話も落ち着いてできています。
担当者のコメント

相続した不動産に住宅ローンが残っている場合、家の価値だけでなく債務も相続人で分け合うことになります。この点は見落とされやすく、今回も妹の由美さんが「自分も借金を負うのか」という不安を抱えたまま、協議が長く止まっていました。
直樹さんは責任感が強く、一人で抱え込んでいました。ただ、共有名義の不動産は共有者全員の合意がなければ売却できません。まず由美さんの不安を解くことが最優先でした。オーバーローンで分けられる財産がないことを数字で示し、債務を直樹さんに一本化する交渉を金融機関と進めたことで、協議がまとまりました。
代位弁済の前後で窓口は金融機関から保証会社、サービサーへと変わりますが、どの段階でも任意売却は可能です。ただし、動き出しが早いほど選べる手立ては多くなります。相続や共有名義の問題は当事者だけで話すとこじれがちです。第三者が入って情報を整理するだけでも、前に進むことは少なくありません。
