相談者様のプロフィール
【相談者の情報】 中村美香さん(仮)、38歳、神奈川県相模原市南区在住。
認可保育園に勤務する保育士で、年収は340万円。
勤続15年。長男(10歳・小学4年生)との2人家族。
2023年10月に離婚が成立し、元夫とは別居。
【物件・ローンの情報】
2018年に中古で購入した3LDKのマンション(相模原市南区、最寄り駅は小田急線・相模大野駅)。
ペアローンで購入しており、美香さん名義が約1,200万円(月々3万5千円)、元夫名義が約1,900万円(月々5万8千円)で、ローン残債の合計は約3,100万円。
管理費・修繕積立金は月々2万3千円。現在の査定額は約2,800万円で、オーバーローン状態。
離婚時に元夫が「ローンは全額払い続ける」と口約束したが、書面には残していなかった。
ご相談の内容
美香さんは2023年10月、元夫の浮気が発覚して離婚が成立しました。慰謝料は100万円のみで、財産分与についてはほとんど話し合わずに終わりました。元夫は「ローンは俺が全額払い続けるから、お前と陸はそのまま住んでいていい」と約束してくれました。息子の学校や友達関係を考えて、美香さんはその言葉を信じて住み続けることを選びました。ただし、この約束は口約束のみで、書面には残していませんでした。
離婚から半年後の2024年4月、元夫が自分の名義分のローン返済を突然停止しました。美香さんが気づいたのは、銀行から督促状が届いてからでした。元夫に連絡を取ろうとしても電話に出ず、LINEも既読無視。職場に電話をかけると「退職した」と言われ、連絡先も分からなくなりました。後に分かったことですが、元夫は新しい恋人と同棲を始めており、そちらの生活費でいっぱいだったようです。
美香さんは自分名義分の3万5千円は何とか払い続けましたが、元夫名義分の5万8千円まで負担するのは不可能でした。保育士の給料では、管理費を含めると月々11万6千円の支払いになり、手取り20万円ほどの収入では到底無理でした。実家の両親(茨城県在住)に相談しましたが、父親も定年後で余裕がなく、「戻ってくればいい」と言われるだけでした。
2024年8月から、銀行からの督促が頻繁になり、「このままでは競売にかけられる」という通知が届きました。美香さんは「私だけのせいじゃないのに」という怒りと、「息子に申し訳ない」という罪悪感の間で揺れ動きました。職場でも集中できず、子どもたちの前で笑顔を作るのが辛くなり、同僚から「最近疲れてない?」と心配されるようになりました。
決定的な出来事は2025年9月に起こりました。長男が学校で「うちのマンション、もうすぐなくなるの?」と友達に聞かれたと泣きながら帰ってきたのです。どうやら督促状を見てしまったらしく、その夜、息子を寝かしつけた後、美香さんは一人でリビングに座り込んで泣きました。「このままではダメだ。ちゃんと向き合わないと」と決意しました。
10月初旬、保育園の保護者の一人が不動産関係の仕事をしていることを思い出し、思い切って相談してみました。その保護者から「任意売却という方法がある」と教えてもらい、専門の相談所を紹介されました。最初は「家を失うのは負け」という気持ちがありましたが、「息子の未来を守るためには、今の状況から抜け出すことが最優先」と考え直し、11月中旬に相談所に連絡を入れました。
相談所からのご提案・解決までの流れ
初回相談では、まず美香さんのお話を丁寧に伺いました。離婚の経緯やペアローンの状況、元夫との約束が口約束のみだったこと、息子さんの学校生活を守りたいというご希望をしっかり受け止めました。美香さんは「私だけが悪いわけじゃないのに」という思いを抱えておられましたが、「お一人で頑張ってこられましたね」とお伝えしたとき、初めて涙を流されました。
ペアローンの場合、それぞれが連帯保証人になっているため、一方が返済を停止すると、もう一方に全額の返済義務が生じることをご説明しました。美香さんは「元夫の分だけ払えば大丈夫だと思っていた」とおっしゃっていましたが、実際には法律上、全額の返済責任があることをお伝えしました。元夫に責任を追及する方法もありますが、連絡が取れない現状では現実的ではなく、まずは美香さんご自身とお子様の生活を守ることを最優先にご提案しました。
任意売却の仕組みと、競売との違いについて分かりやすくご説明しました。特に「任意売却をしても、息子の進学には直接影響しない」「賃貸でも安定した生活は可能」ということをお伝えし、誤解を解消しました。また、美香さんの保育士としてのお仕事は継続できること、お子様の学区を維持できる賃貸物件を探すことも可能だとお伝えしました。
債権者である銀行との交渉を開始し、任意売却への同意を取り付けました。ペアローンの場合、元配偶者の同意も必要になるケースがありますが、元夫が連絡不通のため、銀行と協議の上、美香さん単独での手続きを進める方向で調整しました。売却活動では、お子様の学校行事や美香さんの勤務スケジュールに配慮し、内覧のタイミングも平日日中に限定しました。
並行して、お子様の学区を維持できる賃貸物件を探しました。相模原市南区内で同じ小学校区内の物件を複数ピックアップし、保育士という安定した職業を活かして賃貸契約がスムーズに進むよう、不動産会社との調整も行いました。最終的に、徒歩10分圏内の2LDKマンション(家賃6万5千円)を見つけることができ、長男は転校せずに済むことになりました。
マンションは駅近で利便性が高かったため、約4ヶ月で買い手が見つかりました。売却価格は2,800万円で、残債3,100万円との差額300万円については、債権者と交渉し、月々1万5千円の無理のない分割返済計画を立てることができました。引っ越しは長男の学年末の3月に設定し、新学期から新しい環境でスタートできるよう配慮しました。
美香さんご家族は、相談から約5ヶ月で新しい生活を始めることができました。月々の住居費が6万5千円になったことで、以前のローン返済額(自分の分3万5千円+管理費2万3千円=5万8千円)とほぼ同等の負担になり、残債の分割返済1万5千円を加えても、元夫の分を負担する心配から解放されました。
相談者の声

最初は、元夫が約束を破ったことへの怒りと、自分が全部責任を負わされることへの理不尽さでいっぱいでした。弁護士に相談することも考えましたが、費用のことを考えると踏み出せませんでした。ペアローンだから自分の分だけ払えば大丈夫だと思っていたので、全額の返済義務があると知ったときはショックでした。
息子が友達に「マンションがなくなる」と言われて泣いて帰ってきた日、母親として本当に情けなくて、一人で泣きました。でも、保育園の保護者の方が相談所を紹介してくださって、担当の方に「お一人で頑張ってこられましたね」と言われたとき、初めて誰かに認めてもらえた気がして涙が止まりませんでした。
実際の手続きは、一つ一つ丁寧に説明してもらえたので、不安が少しずつ解消されていきました。元夫に責任を取らせたい気持ちはありましたが、今は連絡も取れないし、それよりも息子と私の未来を考えることが大事だと思えるようになりました。引っ越し先も、同じ学区内で見つけてもらえて、息子は友達と離れずに済みました。
新しい家は少し狭くなりましたが、息子も「新しい部屋、いいね」と言ってくれています。月々の支払いも、以前のように元夫の分を心配することがなくなり、督促状に怯える生活から解放されました。保育士の仕事も続けられて、子どもたちとの時間が私の癒しになっています。
家を失うことは負けだと思っていましたが、今は「息子のために前を向いて生きていく」という決意ができました。いつか、息子が「お母さん、あの時頑張ってくれてありがとう」と言ってくれる日が来ると信じています。担当の方には、本当に感謝しています。
担当者のコメント

美香さんは、シングルマザーとして息子さんを大切に育ててこられた、とても責任感の強い方でした。初回相談のときは、元夫への怒りと自分への責任感で表情が硬く、「私だけのせいじゃないのに」という思いを抱えておられました。その気持ちは当然のことで、まずはその思いを受け止めることから始めました。
今回のケースで特に配慮したのは、ペアローンの法律的な仕組みを正確にお伝えすることと、お子様の学区を維持することでした。ペアローンは夫婦でローンを組むため返済負担を分散できるメリットがある一方、離婚時には大きなリスクになります。特に口約束だけで書面を残していなかった場合、法的な強制力がないため、今回のように一方が返済を停止すると、もう一方が全額の責任を負うことになります。
また、お子様の学区を維持できる賃貸物件を見つけることで、転校という大きな環境変化を避けることができました。美香さんが保育士という安定した職業に就いておられたことも、賃貸契約がスムーズに進んだ要因の一つです。残債の分割返済についても、現在の収入で無理なく返せる金額に設定できたことが、ご家族の安心につながったと思います。
離婚後のペアローン問題は、近年増加している相談内容の一つです。離婚時には、住宅ローンの扱いについて必ず書面で取り決めをすること、可能であれば弁護士を交えて公正証書を作成することをお勧めします。もし既に返済が困難になっている場合は、競売になる前に早めにご相談ください。選択肢を知ることで、ご家族にとって最善の道が見つかります。
